「一分」坂岡真著
丹波篠山藩の城勤めを辞した父が開いた小柴流の道場で、陽太郎は師範代を務めていた。東馬出し口門番士だった21歳のとき、身分の低い下士ながら、御前試合で優勝する。患っていた父が死に1人になった陽太郎の元に、父を見限って実家に戻った母の兄、桑田忠左衛門から使いが来て、茶屋に呼び出された。
桑田は、江戸にいる藩主に直訴を企てている農民を闇討ちにすることを命じた。陽太郎が藩の剣術指南役の鶴橋と炭焼き小屋に向かうと、そこにいたのは道場に通っていた清七だった。陽太郎の制止を無視して清七を斬り殺した鶴橋に、陽太郎は刃を向ける。
密命に背いて武士を捨て、酒蔵で名酒造りにいそしむ男を描く時代小説。
(光文社 1700円+税)