「ふたりの桃源郷」佐々木聰著
大正3年生まれの田中寅夫さんと大正9年生まれのフサコさんは昭和13年に結婚、3人の娘を授かる。農地改革が始まった昭和22年、有り金をつぎ込んでフサコさんの故郷に近い、中国山地の山を買った。電気も水道もない山奥だった。10歳で奉公に出た苦労人の寅夫さんは、お嬢さま育ちのフサコさんに家事や農業を教え、山を開墾して田畑を造り、家畜を飼って生活した。14年後、中学生になった三女の将来を考えて山を下り、大阪で暮らしたが、65歳になったとき、決意する。残りの人生は、夫婦で、あの山で送ろう、と。
老夫婦の桃源郷のドキュメンタリーを30年にわたって撮り続けたディレクターがつづる、幸せな生活の記録。
(文藝春秋 1500円+税)