年末に読みたい!ミステリー小説特集
「落日」湊かなえ著
あといくつか寝れば、待ちに待ったお正月休みに突入。今週は、帰省や旅行など、楽しみな予定がある人も、そうでない人にもお薦めのミステリー小説特集。乗り物で移動中でも、こたつで寝正月でも、時間が経つのも忘れるほど夢中にさせてくれる、とっておきの5冊を紹介する。
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駆け出しの脚本家・真尋に、海外で賞を受賞した気鋭の映画監督・香から脚本のオファーが舞い込む。真尋は、なぜ自分が指名されたのか理由が分からない。話を聞くと、幼い頃、真尋の故郷の笹塚町に住んでいたという香は、幼稚園の同級生だった姉の千穂と真尋を勘違いしていたようだ。
香の新作のテーマは15年前に笹塚町で起きた一家殺害事件だという。事件は、ひきこもりの兄が高校生の妹・沙良を殺した上に、家に火を放ち両親も死んでしまったというものだった。いったんは断った真尋だが、法事で帰省した際に沙良の親友だったというイツカから話を聞き、ある疑問を抱く。一方、幼い頃に過酷な環境にいた香にとって沙良は特別な友人だった。
ベストセラー作家による書き下ろし長編。年明けに選考される第162回直木賞候補作。
(角川春樹事務所 1600円+税)
「Iの悲劇」米澤穂信著
南はかま市役所職員の万願寺が所属する「甦り課」では、無人集落を再生させるため、市外から新規転入者を募るIターンの推進と支援を担当。課員は他に課長の西野と新人の観山の3人だけだ。
市長が選定した久野夫妻と阿久津一家が先行して集落に引っ越してきた。しかし、すぐに久野が助けを求めてくる。毎夜、庭でバーベキューをしながら音楽をかける阿久津家の騒音に悩まされているという。現場に行くと、確かに久野の言う通りだったが、なぜか西野は何も対処しようとしない。4日後、万願寺と観山は久野に夕食に招かれる。相変わらず阿久津家からは大音量の音楽が聞こえてくる。食後、外を見ると、阿久津家で火事が発生していた。(「軽い雨」)
移住者たちが引き起こすトラブルに奔走する公務員たちを主人公にした連作ミステリー。
(文藝春秋 1500円+税)
「死にゆく者の祈り」中山七里著
僧侶の顕真は、拘置所や刑務所の囚人に教えを説いて仏道に導く教誨師としても活動する。ある日、囚人たちが一堂に会する集団教誨で講話をした顕真は、会場に見覚えのある顔を見つけ、動揺する。講話後、刑務官に確認すると、やはり男は顕真の大学時代の親友で、命の恩人の関根だった。関根は5年前に自分の顔のあざをバカにした通りがかりのカップルを殺害した罪で、死刑判決を下されていた。
当時、修行の身で事件について知らなかった顕真は、改めて調べた残虐な事件の概要と自分が知る関根とのギャップに違和感を抱く。個人教誨の場で関根と向き合うことになった顕真だが、彼が罪を犯したとは思えず、独自に事件について調べ始める。
死刑囚になってしまった親友の「救済」に奔走する教誨師を主人公にした社会派ミステリー。
(新潮社 1600円+税)
「サンズイ」笹本稜平著
サンズイと呼ばれる汚職絡みの政治案件を扱う警視庁の刑事・園崎は、大物代議士桑原の秘書・大久保を任意で取り調べる。容疑はある自治体の市有地売却に絡む不正行為で、園崎は証拠を固めて桑原の逮捕につなげたい。しかし、検察からの圧力で捜査は打ち切りに。納得できない園崎は、相棒と密かに捜査を続行する。
そんな中で、大久保が桑原についての情報を手渡すと接触してきた。ところが待ち合わせ場所に大久保は現れない。同時刻、園崎の妻子がひき逃げされる。大久保の犯行を疑う園崎だが、逆に千葉県警の刑事に妻子のひき逃げ容疑で連行されてしまう。発見された事故車両から園崎の指紋がついたボールペンが見つかったというのだ。
自らの疑いを晴らすため、捜査網をかいくぐり真相を追う刑事の孤独な戦いを描くサスペンス。
(光文社 1700円+税)
「漣の王国」岩下悠子著
大学の水泳部選手・瑛子は、人一倍練習に励むが、思うようにタイムが伸びない。その原因が、同じ水泳部のスター選手・綾部の存在にあることは自分でも気付いている。すべてに秀で、王のように振る舞う綾部は、常に女たちに取り囲まれている。毎日、フェンス越しに練習を見つめるミス・キャンパスの舞がどうやら、彼の新しい恋人らしい。そんな中、瑛子は医学部に在籍する後輩の猫堂から、同じゼミの舞が妊娠しているようなので、赤ん坊の父親を突き止めて欲しいと頼まれる。話を聞く瑛子の脳裏に、校舎の壁で見つけた「お父さん、どこにいるの」という落書きが浮かぶ。父親は綾部に違いないと確信する瑛子だが、猫堂は違うと言う。(「スラマナの千の漣」)
後に自ら命を絶つことになる綾部と出会った4人の視線で描かれる連作ミステリー。
(東京創元社 1800円+税)