「東京、はじまる」門井慶喜著
主人公は、イギリスでの3年間の留学を経て帰国したばかりの辰野金吾。工部大学校造家学教授であるジョサイア・コンドルに選出されて留学を果たした金吾だったが、1883(明治16)年に帰国したばかりの彼の目に映った東京の町は、列強諸国と比べて貧弱すぎた。金吾は、個々の建物ではなく東京の街並みそのものを建築したいという野望を抱く。まずは日本人自身による街づくりを目指し、工部省営繕局の役人として建築技術者すべてを統括する立場に立つと同時に、母校の教授に就任した。やがて日本銀行本店本館や東京駅の駅舎の設計など、次々と東京の風景をつくり変えていくのだが……。
明治の世に辰野式と呼ばれる建築様式を確立した建築家の生涯を描いた物語。東京を力強い首都として機能させるために、日本中から優秀な人材を密に集める整理だんすのような都市にしようと意図した男の挑戦の軌跡が読みどころ。突如として密を避けることが叫ばれている2020年の今刊行されたことや、金吾がスペイン風邪で亡くなっていることなどを考え合わせると、都市の一時代の総括のようにも読めて、その巡り合わせに驚かされる。
(文藝春秋 1800円+税)