「『慵斎叢話』15世紀朝鮮奇譚の世界」野崎充彦著
「慵斎叢話(ようさいそうわ)」とは、朝鮮王朝時代に士大夫と呼ばれた行政官の成俔(せいけん)が記した全10巻に及ぶ随筆集。さまざまな主題でつづられた叢書の中から、人間くさいエピソードを紹介しながら、韓国の当時の社会や世相を読み解いていく文学テキスト。
ある年、成俔は母の葬礼のため出向いた坡州で僧の信修と出会う。信修は若い人妻に手を出した上に、その年老いた夫と3人で暮らすような破戒僧だった。著者は、一般には「廃仏崇儒」といわれるが、国王によってまちまちだった朝鮮王朝の宗教政策を解説しながら、教義から外れながらも己の道を求めてさまよう信修の姿に「個人」の誕生を垣間見る。
他にもパンスと呼ばれる盲人の占い師などのエピソードを読み解きながら、隣人たちの世界観のルーツに迫る。
(集英社 840円+税)