「新型コロナと貧困女子」中村淳彦氏
コロナ禍による緊急事態宣言で歌舞伎町には人影がなくなった。
こっそり営業するホストクラブもあったが、“濃厚接触”でしか生きられない風俗嬢やキャバ嬢は「政府は私たちに死ねって言ってるんでしょうか?」と悲鳴を上げた。彼女らの多くは日給や歩合制であり、店が出勤制限や休業をすれば、即日、収入減となる。本書は主に風俗嬢のコロナ禍での困窮を取り上げたノンフィクションだ。
「収入の途絶えた風俗嬢にとって20万円の緊急小口資金貸付制度が頼り。しかし、二転三転して風俗も対象となりましたが、実際はなかなか貸してもらえないのが現状です。税金を払うという文化が風俗嬢にないので、困窮前の収入を証明するものがないんです」
今さら国に頼るのは自己責任に反するという声も社会にはある。月200万円を稼いでも貯金せず豪遊したり、ホストに貢いですっからかんの若い風俗嬢や、「この仕事は長く続けていけない」と忠告されるも聞き流し困窮する熟女風俗嬢も本書では登場する。
その一方で、夫のDVから逃げて、やむにやまれず風俗に入った人や、昼の仕事では子供を育てられずキャバクラに勤めているシングルマザーら、さまざまな事情を抱えた貧困女性が登場する。それでもコロナ以前は厳しいながらも、なんとか食べていくことができた。
「昔は、風俗は高給取りというイメージがありましたが、平成の労働法の改革で女性の契約社員が大量に生まれ貧困化しました。日本は徹底した男性優位の社会ですからね。お金の足りない女性たちが大量に風俗に流れたために、10年前ぐらいから繁華街の風俗はデフレを起こして値段は下がり続けています。そこにコロナが女性の最後のセーフティーネットである風俗業界を徹底的に破壊してしまいました」
感染は怖いが、収入がなければ飢えてしまう。お客のメインは若者よりも性欲の強い中高年だが、コロナが怖くて出てこない。家賃を滞納し食材を買うお金もない。田舎に帰れる人はまだましで、親とは関わりを断っている風俗嬢の中には闇金からお金を借りてしのぐ人もいるという。
「若い風俗嬢ならなんとか食べてはいけるでしょう。深刻なのが、もともとギリギリの生活を送っていた熟女の風俗嬢ですね。生活保護や婦人保護施設などの最終手段もありますが、何から何まで厳しく管理される。売春してでも自分の力で生活したい人も多いんです。違法行為と知りつつも、“福祉活動”として自分の持ち家を開放して主に貧困熟女の生活を助けるため、乱交パーティーを主催している人もいますが、コロナでそんなパーティーの開催も難しい。もちろん、年を取って売れなくなったときのことを考え、風俗をやめて、昼職に移りたい人はいます。スキルを身につける場や就職活動中の生活費を国が支援してくれるなら、転職したいという風俗嬢も多いのではないでしょうか」
本書では長年、「立ちんぼ」を続けてきた女性の告白や、恵まれた団塊世代の親の無理解によってピンサロ嬢となった女子大生のコロナによる生活苦なども紹介している。コロナによって生活を破壊され、必死にもがく風俗嬢たちの姿は、決して特殊な世界の話ではなく、数カ月後の私たちかもしれない。
(宝島社 880円+税)
▽なかむら・あつひこ 1972年、東京都生まれ。ノンフィクションライター。アダルト業界の実態に詳しく、AV女優や風俗嬢を1000人以上取材。一時期、介護施設の代表を務めた。著書に「東京貧困女子。」「崩壊する介護現場」「日本の風俗嬢」「ルポ 中年童貞」など。