「衆議院事務局 国会の深奥部に隠された最強機関」平野貞夫著
衆議院事務局とは、単なる事務的な作業を行う部署ではない。国会を正常に運営するために、非常に重要な仕事を担っている。例えば、議長や委員長の発言の下書き、明治以降の議会紛糾事例と処理情報の管理、政党や議員からの調査要望への対応。表舞台には登場しないが、裏で国会を支える黒衣といってもいい。
著者は岸内閣から宮沢内閣までの33年間、衆議院事務局職員として働き、その後、参議院議員も務めた人物。「憲法の番人」を使命と心得て、国政に関わってきた。
日本では「統治行為については最高裁判所が違憲かどうかを判断しない」という慣行があり、判断は国会と内閣に委ねられている。しかし、著者いわく「自民党は憲法違反が大好きな政党」だから、いかに自民党に憲法違反をさせないか、と目を光らせてきたのが衆議院事務局だという。
この重要な機関の知られざる実像を明らかにし、職員としての体験を書き残した本書は、政治の実相を国会の内側から見た戦後国会の裏面史ともいえる。佐藤栄作内閣「健保国会」、田中角栄内閣「靖国神社法案」、三木武夫内閣「ロッキード事件」、海部俊樹内閣「湾岸戦争」……。マスコミで報じられた国会論戦の陰で、何が起きていたのか。議長は紛糾する国会に頭を抱え、事務局は事態収拾に奔走する。重大な局面で政治家の志が問われ、時に本音が漏れる。
憲法と議会制民主主義を守るために働いてきた著者にとって、昨今の政治の著しい劣化は目に余る。著者と菅義偉首相は法政大学出身の先輩後輩に当たるが、批判は舌鋒鋭い。
菅政権は、憲法原理の破壊、政治道義の毀損、権力の私物化などを安倍政権から継承、発展させようとしている。この政治から脱却しなければ、「日本は亡国の地獄となるだろう」とまで言って国民の覚醒を促すのだが、その言葉には日本復活ヘの願いが込められている。
(白秋社 1800円+税)