「絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている」左巻健男著
水、空気、土、石、木、金属、紙、ガラス……我々の周囲には多種多様な物質があふれている。それぞれの物質には独自の構造・性質・化学反応があり、それを研究するのが化学である。学校で習う化学が苦手な人は、複雑な化学式や元素表を目にしただけで、「むずかしい」と逃げ出してしまうだろう。本書はそんな人にも、化学がどういう学問であり、その研究が人間の歴史とどのように関わり合ってきたかを興味深いエピソードを交えながらわかりやすく解説してくれる。
たとえば「ガラスはなぜ透明なのか?」。物質の基礎は原子であり、すべての物質は原子からできている。
原子はその中心の原子核とその周囲を回る電子とから成っている。原子はおよそ1億分の1センチで原子核の大きさはその10万分の1~1万分の1程度で電子はさらに小さい。原子の大きさを東京ドームとすると、原子核は1円硬貨ほどの大きさで、電子は砂粒程度。つまり、物質の内部は大部分がスカスカの空っぽなのだ。そこに光が当たれば原子核にも電子にもぶつからずに通過でき、透明に見えるはず。それなのに透明でない物質があるのは、物質の表面や内部で可視光線が散乱したり、吸収されたりするからだ。
光が散乱せず吸収もされないガラスが最初につくられたのは紀元前5000年ころのメソポタミアで、以来、吹きガラスの発明、ガラス窓などの発明を経て、現在ではインターネットを支える光ファイバーに応用されている。
人類のたゆまぬ好奇心と探究心はさまざまな災禍を克服してきた。史上最も多くの死者を生み出した感染症といわれるマラリアは、DDTという殺虫剤の登場で激減したが、同時に生態系への深刻な悪影響を引き起こした。また、第1次・第2次世界大戦における毒ガスなどの化学兵器・生物兵器、ベトナム戦争におけるナパーム弾などの兵器も化学研究から生まれたものだ。
化学研究がもろ刃の剣であることを自戒しつつ、人類はこれからも地球温暖化などの解決に向かっていくのだろう。 <狸>
(ダイヤモンド社 1870円)