「日本外食全史」阿古真理著

公開日: 更新日:

 現今のコロナ禍においてもっとも深刻なダメージを受けているのは外食産業だ。2020年の1年間に倒産した飲食店は780件と過去最高。売り上げは前年比84・9%、中でもパブ・居酒屋は50・5%と半減。

 本書は、くしくも「外食元年」とされる1970年から50年目の節目で起きたこの艱難(かんなん)を踏まえて、日本の外食の歴史を広範に見渡し、外食の意味を改めて問うている。

 1970年の大阪万博では143の食堂、267の売店が置かれた。この万博はケンタッキーフライドチキンはじめインド本場のカレーなど、初めて世界の味に接する場所であり、同時にチェーン店方式で外食が産業化する時代の幕開けでもあった。

 同年、すかいらーく、フォルクスの1号店が登場、翌71年にはマクドナルド、ロイヤルホスト、ミスタードーナツ、72年にモスバーガー、ロッテリアなど今も知られる人気チェーン店が相次いで産声を上げる。この外食ブームの後押しをしたのが、マンガの「包丁人味平」「美味しんぼ」、テレビの「大食い選手権」「料理の鉄人」などの各種メディアだ。本書ではこれらグルメブームをもり立てていくメディアの動向も検証している。

 といっても、70年以前に日本に外食がなかったわけではない。江戸時代のおでん、そば、すしといったファストフードに始まり、明治期の肉食時代の到来とともに登場した牛鍋(すきやき)、焼き鳥などの肉料理、コロッケ、とんかつ、カレーライスといった「洋食」など、著者は前史ともいうべき時代の日本の食文化に対しても細かな目配りを欠かさない。

 さらには、フランス料理、イタリア料理、中国料理、アジア料理などを個別に取り上げ、画期をなす人物や店を軸にそれぞれの料理の世界へ分け入っていく。

「全史」というタイトルにたがうことなく、600ページを超える本書は、文献やネット情報をふんだんに駆使して、いかにして日本に外食文化が定着していったかの歩みを詳細に後付け、外食産業の未来をも見据える。

 今後も長く残る労作だ。 <狸>

(亜紀書房 3080円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高嶋ちさ子「暗号資産広告塔」報道ではがれ始めた”セレブ2世タレント”のメッキ

  2. 2

    フジテレビ「第三者委員会報告」に中居正広氏は戦々恐々か…相手女性との“同意の有無”は?

  3. 3

    大阪万博開幕まで2週間、パビリオン未完成で“見切り発車”へ…現場作業員が「絶対間に合わない」と断言

  4. 4

    兵庫県・斎藤元彦知事を追い詰めるTBS「報道特集」本気ジャーナリズムの真骨頂

  5. 5

    歌手・中孝介が銭湯で「やった」こと…不同意性行容疑で現行犯逮捕

  1. 6

    大友康平「HOUND DOG」45周年ライブで観客からヤジ! 同い年の仲良しサザン桑田佳祐と比較されがちなワケ

  2. 7

    冬ドラマを彩った女優たち…広瀬すず「別格の美しさ」、吉岡里帆「ほほ笑みの女優」、小芝風花「ジャポニズム女優」

  3. 8

    佐々木朗希の足を引っ張りかねない捕手問題…正妻スミスにはメジャー「ワーストクラス」の数字ずらり

  4. 9

    やなせたかし氏が「アンパンマン」で残した“遺産400億円”の行方

  5. 10

    別居から4年…宮沢りえが離婚発表「新たな気持ちで前進」