「ショートケーキ。」坂木司著
ゆかとこいちゃんは、高校の同級生。ひとり親家庭という境遇、小学生の頃から続く月1度の父親との面会、そして2人家庭ならではの不満まで同じで、仲良くなった。その不満とは「ホールケーキを食べる機会を失った」というもの。かくして2人は「失われたホールケーキの会」を結成。家庭環境でやりきれないことが起こるたび「会」を発動させ、切れてないケーキにぱくついてきた。
大学生になったある日、ゆかとこいちゃんは同時に、父親から何やら意味ありげなLINEを受け取る。考えてみると2人とも今月で20歳になる。養育費と面会終了の通知ではないかと察し、面会のあと「会」を開催することにしたのだが……。(「ホール」)
数あるケーキの中でも不動の人気を誇る「いちごのショートケーキ」をめぐる5つの連作短編集。ゆかとこいちゃんがケーキを買う店でアルバイトをする俺を主人公に描く「ショートケーキ。」、
そのケーキ屋の店員・上田さんがうれしいことがあったときにひとりで行う「趣味」をつづった「追いイチゴ」など、登場人物がゆるやかにつながりながら、物語を紡いでいく。ケーキを食べること、贈ることに秘められた人々の優しさがじんわりと伝わってくる。
(文藝春秋 1540円)