「娘に語るお父さんの戦記」水木しげる著
妖怪漫画の巨匠による戦争体験記。
「お父さん」が21歳のとき、召集令状と書かれた赤い紙が届いた。鳥取の連隊に入営したお父さんは、ラッパ卒に配属されたが、練習してもラッパがうまく鳴らない。配置換えを願い出たら南方に送られることになってしまった。日露戦争に使われた、浮かんでいるのが奇跡というボロ船に乗せられ、たどりついたのはラバウルだった。
以後、後続部隊は到着せず、いつまでも初年兵のお父さんは、毎日上官に殴られ続ける。ある日、送り込まれた最前線で味方が全滅。九死に一生を得て、何日もかけて部隊に戻ったが、爆撃で左手を失ってしまう。一方で野戦病院を抜け出しては、島民の部落に通い現地の暮らしに触れる。
娘に語りかける優しい口調で凄惨な体験を伝える。
(河出書房新社 891円)