「あの子とQ」万城目学著
主人公は両親も吸血鬼という嵐野家の一人娘、弓子。といってもこの現代で吸血などできるはずもなく、人間と同じように太陽の下でふつーの生活を送る、「脱吸血鬼化」した吸血鬼だ。
そんなある日、弓子のもとに、トゲトゲの物体「Q」が突然現れる。17歳の誕生日までの10日間、弓子が本当に血を吸わないか監視に来たという。高校生の弓子にとってはうっとうしい限りだが、親友の「ヨッちゃん」が思いを寄せる豪太の好みをリサーチするなど、役に立つこともある。
ところが弓子の楽しい高校生活は一転。ヨッちゃんらとのダブルデートの帰りのバスが転落し、全員が大けがを負う。弓子の目の前には瀕死の豪太が。土砂降りの雨の中、弓子は血の匂いにむせ……。
「鴨川ホルモー」など奇想天外な物語を世に送り出してきた著者による、青春吸血鬼ストーリー。
物語は後半、日本人の吸血鬼第1号を名乗る「佐久」と共に消えた弓子の「Q」捜しが描かれる。吸血してこそ吸血鬼という「宿命派」との攻防戦、捕らわれた「Q」の過去、やがてその正体が明らかになる。
ユーモアのある筆致でつづられる現代の吸血鬼ワールドを堪能あれ。
(新潮社 1760円)