「ファスター」ニール・バスコム著 吉野弘人訳

公開日: 更新日:

 自動車のスピードに魅せられレーサーを志す若者たちがいた。本書は、人々を熱狂させる自動車レースが次々開催された1930年代に、モータースポーツの現場でどんなことが起きていたか、命懸けのドライバーたちの格闘とともに、自動車産業界の思惑や政府のプロパガンダ利用の動きまでにも迫ったノンフィクションだ。

 本書には当時活躍したレーサーが登場する。1930年のモナコグランプリでライバルから優勝をもぎ取ったルネ・ドレフュス、雨のレースに強かったことからレインマスターと呼ばれるようになったルディ・カラツィオラ、最高速度記録を次々と塗り替えていくベルント・ローゼマイヤーらは、国籍や人種などの垣根を越えてレースへの情熱を燃やしていた。

 しかし、欧米に不況と戦争の不穏な足音が訪れるにつれ、モータースポーツが単なるスポーツから国家の威信をかけた別物へと変わり、レーサーもそれに巻き込まれていく。死と隣り合わせの挑戦と引き換えに国民的英雄として祭り上げられるレーサーの葛藤、徹底的な政治利用を試みるナチスの動きなどが詳細に描かれている。

(パンローリング 2640円)

【連載】週末に読みたいこの1冊

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人が戦々恐々…有能スコアラーがひっそり中日に移籍していた!頭脳&膨大なデータが丸ごと流出

  2. 2

    【箱根駅伝】なぜ青学大は連覇を果たし、本命の国学院は負けたのか…水面下で起きていた大誤算

  3. 3

    フジテレビの内部告発者? Xに突如現れ姿を消した「バットマンビギンズ」の生々しい投稿の中身

  4. 4

    フジテレビで常態化していた女子アナ“上納”接待…プロデューサーによるホステス扱いは日常茶飯事

  5. 5

    中居正広はテレビ界でも浮いていた?「松本人志×霜月るな」のような“応援団”不在の深刻度

  1. 6

    中居正広「女性トラブル」フジは編成幹部の“上納”即否定の初動ミス…新告発、株主激怒の絶体絶命

  2. 7

    佐々木朗希にメジャーを確約しない最終候補3球団の「魂胆」…フルに起用する必要はどこにもない

  3. 8

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  4. 9

    フジテレビ「社内特別調査チーム」設置を緊急会見で説明か…“座長”は港社長という衝撃情報も

  5. 10

    中居正広「女性トラブル」に爆笑問題・太田光が“火に油”…フジは幹部のアテンド否定も被害女性は怒り心頭