「眠れる美女」川端康成著

公開日: 更新日:

 間もなく67歳になる江口は、ある夜、知人の木賀老人に紹介され、とある家を訪ねる。案内された2階には2部屋しかないようで、江口のいる座敷と杉戸で隔てられた先に寝間があった。

 ここは年老いて「安心できるお客さま」だけに、「眠れる美女」との添い寝を提供してくれる場所だ。江口自身は「安心できるお客」ではまだないが、そうであることはできた。案内の女が去り、寝間に入ると、想像していたよりもはるかに美しい女が何も身につけず布団の中で眠っていた。

 女は薬で眠らされ廟ているらしく、江口が声をかけても、体に触れても目を覚まさない。それはまるで、もう男でなくなった老人に恥ずかしい思いをさせないための生きたおもちゃのようだ。

 遠くから潮騒が聞こえてくる部屋で眠る娘の体を見ていると、ふと女の匂いに交じって乳の匂いがする。その匂いに誘われ、かつて一緒に夜を過ごした女の思い出が蘇ってくる。

 眠れる美女との夜が忘れられなくなり、その秘密の家に通う江口老人を主人公に描く文豪のデカダンス文学の傑作。

(新潮社 572円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動