「眠れる美女」川端康成著
間もなく67歳になる江口は、ある夜、知人の木賀老人に紹介され、とある家を訪ねる。案内された2階には2部屋しかないようで、江口のいる座敷と杉戸で隔てられた先に寝間があった。
ここは年老いて「安心できるお客さま」だけに、「眠れる美女」との添い寝を提供してくれる場所だ。江口自身は「安心できるお客」ではまだないが、そうであることはできた。案内の女が去り、寝間に入ると、想像していたよりもはるかに美しい女が何も身につけず布団の中で眠っていた。
女は薬で眠らされ廟ているらしく、江口が声をかけても、体に触れても目を覚まさない。それはまるで、もう男でなくなった老人に恥ずかしい思いをさせないための生きたおもちゃのようだ。
遠くから潮騒が聞こえてくる部屋で眠る娘の体を見ていると、ふと女の匂いに交じって乳の匂いがする。その匂いに誘われ、かつて一緒に夜を過ごした女の思い出が蘇ってくる。
眠れる美女との夜が忘れられなくなり、その秘密の家に通う江口老人を主人公に描く文豪のデカダンス文学の傑作。
(新潮社 572円)