「海を渡った日本文学」堀邦維著
「海を渡った日本文学」堀邦維著
現代日本文学で最初に英訳が出たのは小林多喜二の「蟹工船」である。1933年にアメリカとイギリスの兄弟会社で同時に出版された。
英訳したのは日本の警察に治安維持法で逮捕されたイギリス人、ウィリアム・マックスウェル・ビカートン。当時、政治的に不穏当な部分は編集者が伏せ字にしていたが、「XXX」というように伏せ字のまま英訳した箇所はなく、訳者が不明箇所を想像で補足するか削除している。
逆に、「どの鉄道の枕木もそれはそのまま一本一本労働者の青むくれた『××』だった」には「corpse(死骸)」を入れている。想像でこの内容を特定するのは無理なので、元の原稿を見せてもらったのではないか。
ほかに、川端康成の「雪国」などの翻訳エピソードを紹介する。
(書肆侃侃房 2200円)