著者のコラム一覧
名郷直樹「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。

【かっけ】森鴎外から先駆けること3年 高木兼寛が動物実験

公開日: 更新日:

 森鴎外が「同じ船の兵士を2群に分けて臨床試験を行わなければ、かっけが食事による栄養不足(高木兼寛はタンパク質不足説を唱えていた)によるものかどうか、結論を出すことはできない」と指摘したのは明治22年ですが、それに先駆けること3年、高木兼寛自身が犬の実験によって、自分の仮説を検証しています。

 実験の概要を簡単にお示ししましょう。

 彼の仮説は「タンパク質の不足がかっけを引き起こす」というものです。そこで、タンパク質と炭水化物の割合が1対4(健康食)、1対8(かっけ食)の食事をそれぞれ犬群に与え、かっけの発症を比較したのです。

 もちろん予想される結果は、「前者でかっけの発症が減る」ということです。

 このとき2回の実験が行われていますが、2回ともそれぞれ3匹ずつの犬に健康食、かっけ食を与えたところ、1回目の実験では前者の犬は全員健康だったのに対し、後者では1匹が嘔吐、2匹がマヒを来し、3匹ともが死亡。さらに2回目の実験でも同様の結果で、健康食の3匹はいずれも生存し、かっけ食の3匹のうち2匹が死亡しています。わずか3匹ずつの比較試験ですが、軍艦「龍驤」と戦艦「筑波」の前後研究の結果と合わせれば、この時点ですでに「タンパク質不足」という仮説は間違っているものの高木兼寛の言う健康食でかっけが予防できることはほとんど明らかに思えます。

 しかし、この実験結果も細菌説、中毒説をとる鴎外を含む東大グループによって黙殺されます。

 この時、高木兼寛がタンパク質不足説にこだわらず、「とにかくこの食事がかっけを防ぐのだ」と強く主張すれば、少し結果は変わっていたかもしれません。

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動