「遺伝性乳がん・卵巣がん」対策を阻む日本人の家意識
HBOCの対策が遅れている理由はもうひとつある。健康保険の問題だ。遺伝子検査、予防切除は全て保険適用外。遺伝子検査は25万円かかる。
「だから日本人の遺伝データが集まらない。予防切除の普及には保険適用が必要になりますが、それには日本人の遺伝データが必要で、遺伝データを収集するには検査費用を下げなくてはならない。そして、それには保険適用が必要……と堂々巡りに陥っているのです」
加えて、予防切除後の再建手術の技術が進む英国に対し、日本では高い技術を持つ専門医は少ない。美しい再建が望めないなら予防切除をやろうという気には、大半の女性はならないだろう。
小倉さんが願うのは「予防切除を希望する人が、それを選択できる社会」。今回の厚労省の動きで一歩近づくのではと、期待している。
■HBOCとは
親から受け継いだ特定の遺伝子変異により発症。HBOC患者の乳がん、卵巣がん発症リスクは一般の人より高く、乳がんは女性で41~90%、男性で1・2~6・8%、卵巣がんは8~62%。発症前に予防切除すれば、リスクを大幅に下げられることが分かっている。
▽おぐら・たかやす カイロ、ニューヨーク両支局長、欧州総局(ロンドン)長を経て2015年から外信部長。英国の乳房予防切除の実態報告で日本人初の英外国特派員協会賞受賞。