発症リスク減 アルツハイマー予防に30分未満の昼寝が効く
国内の認知症患者数は2025年には推計700万人、65歳以上の5人に1人に達する。認知症というと、年寄りの病気のイメージがあるが、予防は40代から始めなくてはいけない。中でも最新研究で注目されているのが「睡眠」の有効性だ。
40代になってから眠れなくなった――。実はこれが将来の認知症リスクと大いに関連しているといったら驚くだろう。
では、どれくらいの人が不眠に悩んでいるのだろうか? 睡眠障害の訴えは若年層で少なく、中年者層(40~59歳)で約18%、高齢者層(60歳以上)で約30%に増える。若い頃はあんなにぐっすり眠れたのに、40歳を越えたあたりから夜中に何度も起きてしまうという人は多いはずだ。
少し専門的になるが、認知症全体の5~6割を占めるアルツハイマー型認知症は、アミロイドβなどの有害物質が脳内に蓄積し、脳神経細胞を死滅させることで発症する。もちろん、急に蓄積するのではなく、発症までに25年ほどかけて徐々にたまっていく。つまり、70歳以上で発症するケースが多いアルツハイマーは、その25年前の45歳くらいから原因は始まっていることになる。
ならば、アミロイドβのような有害物質を脳神経に蓄積させなければいい。その役割を担っているのが、「睡眠」というわけだ。米ワシントン大学の研究によると、睡眠障害がある人は、睡眠が安定している人に比べてアミロイドβの蓄積が5・6倍も多いということが分かっている。
「脳科学者の母が、認知症になる」の著者で、脳科学者の恩蔵絢子氏がそのメカニズムをこう説明する。
「認知症に関わる因子は、簡単に言えば、“脳の中にできた消化不良の粗大ゴミ”です。ゴミが出ること自体が悪いわけではなく、通常はこれが分解され、再利用されるのですが、なんらかの理由で分解できなくなる。それがアミロイドβとタウ・タンパク質というものです。ちゃんとした睡眠を取っていないと、このゴミが適切に捨てられなくなり、アルツハイマー型認知症の原因になると考えられます」
この有害物質を脳神経から除去するのが睡眠であり、質のいい睡眠はアルツハイマー予防に効果があるというわけだ。
■発症リスクが20%まで減
それでは、毎日どれくらいの睡眠を取ればいいのか。
睡眠時間と認知症発症リスクを調べた研究では、「6~7時間」が最も発症が少なく、睡眠時間が6時間以下と短い人は認知症のリスクが1・36倍となった。
だが、眠りが浅い人など全員がぐっすり眠れるわけではない。快眠のためには、まずは「適度な運動」が大事だ。といっても、急にマラソンを始めたりすると活性酸素が増えて老化が早まるので、1日30分程度のウオーキングでいい。さらに睡眠を助ける「ビタミンB6」の摂取。バナナなら4本が目安(成人男子1・4ミリグラム)になるが、サプリメントで簡単に取れる。夕飯後は部屋の「照明を薄暗く」して脳に眠る準備をさせる。逆に寝酒は長期的に見て快眠を妨げるのでやめた方がいい。
そして最新研究で最も注目されているのが、「昼寝」だ。国立精神・神経医療研究センターによると、30分未満の昼寝をする人は、昼寝の習慣がない人に比べ、認知症発症リスクを20%まで減らすことが分かった。睡眠を働きかけるメラトニンの生成に、昼寝が効果的とされるからだ。ただし、昼寝が30分以上になると逆に認知症リスクは高まり、2時間以上だと逆に80%上昇するので気を付けたい。
欧州ではアルツハイマー研究が進んだ結果、発症の割合が減りつつあるという。サラリーマンで昼寝は難しいが、電車やバスでうとうとする人は、知らず知らずに認知症予防をしていることになる。