本当はこわい「いびき」の真実…睡眠の専門医が警鐘鳴らす
「いびきを指摘されて悩んでいる」「家族のいびきがうるさくて眠れない」こんな経験をしている人は多いだろう。いびきは、単純に「うるさいもの」「迷惑なもの」と考えられがちだが、実は体や心のさまざまなところにダメージを与えてしまう、怖いものであることをご存じだろうか。
1万人以上の患者に睡眠治療を行ってきた、日本睡眠学会専門医で「RESM新横浜」(神奈川県横浜市)の白濱龍太郎院長は警鐘を鳴らす。
「いびきを放置しておくと、睡眠時無呼吸症候群(SAS)につながります。重症化すると、高血圧症や動脈硬化の進行にともなう狭心症や心筋梗塞などの循環器系疾患、糖尿病などの代謝系疾患を招き、最悪の場合、突然死のリスクを高めることもあります。また、一緒に寝ている人の血圧も上げてしまうというデータがあり、自分だけでなく周りの人の健康にも害を与えてしまう可能性があります」
いびきは「うるさいけど、しょうがない」ものではなく、しっかり向き合い、治さなければいけない病気だという認識を持つべきなのだ。
■なぜ太るといびきをかきやすくなる?
そもそもいびきとは、鼻やのどなどの気道が狭くなったところを、呼吸時に空気が無理やり通り抜けようとする際に音が鳴る物理的な現象だ。主な原因は身体的なもので、骨格や体型が大きく影響してくる。骨格的にあごの小さい人、舌や口蓋垂(のどちんこ)の大きい人、扁桃腺が腫れやすい人は、とくにいびきが出やすいと考えていい。
後天的な原因として大きいのは、なんといっても肥満。太ると首周りなど体内に脂肪がつき、それによって気道が狭くなり、一層いびきをかきやすい体になってしまうのだ。
ただし、痩せているからといっていびきをかかないわけではない。見た目はスリムな体型でも体内に脂肪がついている人はたくさんいる。シャープな顔つきをしていても舌や口蓋垂が生まれつき大きかったり、「アデノイド増殖症」(咽頭扁桃という鼻の奥のリンパ組織が肥大する病気)という、いびきの原因になる病気を患った経験がある人もいる。花粉症やアレルギー性鼻炎のある人も、鼻が詰まりやすく口呼吸になりがちなので、いびきリスクを抱えているといえる。
また、加齢とともにいびきをかく人の割合は増えていく。人は年を取ると筋肉が衰えていくが、それが舌にも影響してくるからだ。舌の筋肉が緩くなると、舌がのどの奥に入って行ってしまう舌根沈下という現象を招き、気道が狭くなっていびきが出る。これは、体型に関係なく、年を取れば誰にでも起こり得ることだ。
統計上、いびきをかくのは圧倒的に男性が多いのだが、女性も安心はできない。女性の場合、閉経を迎えて女性ホルモンの減少が起こると、相対的に男性ホルモン優位となり、男性化が進むからだ。50歳前後になり更年期に差し掛かってくると、気が付かないうちにいびきをかきやすい体質になっていることを認識しておいた方がいい。
生まれつきの骨格、肥満、鼻やのどの疾患、加齢など、いびきをかく原因はかなり多岐にわたる。誰しもが気を付けなければいけないものなのだ。
「いびきは、前述した重篤な病気につながる危険なものですが、それ以外にも、私達の心や体にさまざまな悪影響を与えます。うつ病と診断された患者の大半が『睡眠障害』を訴えているというデータがあり、この中には当然、SASも含まれます。逆から考えると、SASが引き金になって、うつ病を発症するケースがあるということです。また、睡眠時無呼吸症候群がAGA(男性型脱毛症)を進行させる可能性や、ED(勃起不全)になる確率を上げるということもわかってきました」
SASは、軽症者や自覚症状のない予備軍も含めると、なんと日本人の5人に1人が患っているという。知らず知らずのうちに、さまざまなリスクを上げてしまうこわいいびき。次回は、白濱院長の著書「睡眠専門医が考案した いびきを自分で治す方法」から、「いびき解消メソッド」を紹介してもらう。