舞台上で息が苦しくなって…俳優・松尾貴史さん「肺塞栓症」を振り返る
次にそのベッドにやって来たのは航空会社のパイロットで、入院の理由は定員200人以上の旅客機を操縦するためにクリアしなければいけない検査のためだと小耳にはさみました。飛行機の座席数の違いでそんな基準があるとは初耳でした。その人は数学が好きらしくて、看護師さんに「虚数」の話を延々としていました。「ね、面白いでしょ」というパイロットに対し、「面白いですね~」と話を合わせる看護師さんの決して面白そうじゃない相づちが聞こえてきたりして、4人部屋はまったく退屈しませんでした。
ちょうど2週間で退院し、年明けから稽古を再開。1月8日の兵庫県から最後の山形県までやり切り、千秋楽ではカーテンコールを5回もいただきました。とてもありがたかったです。
今でも血液をサラサラにする抗凝固薬を朝夕1錠ずつ服用しています。血管の狭いところに入っている血栓が取れにくくて、まだ少しだけ残っているんです。きれいになくなれば薬もいらないんじゃないかな。次の検査でその後の方針が決まると思います。
人は経験主義で考えることが多いと思うんです。健康に関しても、「今までこのくらい平気だったから、この程度は大丈夫」というバイアスが人の心理には必ずある。今回、緊急入院という事態になってみて、改めてそのバイアスを差し引いて、自分を冷静に客観的に見なければいけないと学んだ気がします。「1×1」は「1」だけれど、「1.1×1.1」は累進で大きくなる。お酒を飲むときに水を飲まなかった……みたいなささいな油断でも、重なれば大きなリスクになり得るということです。