著者のコラム一覧
中川恵一東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

上岡龍太郎さんの訃報で改めて「がんで死にたい」と思い直した

公開日: 更新日:

 それが今や全体で47.5%と当時の2倍以上。ステージ1に限れば85.6%です。上岡さんのように肺がんで10年生存するのは、決して珍しくはありません。

 なぜか。男性の喫煙率の低下がひとつ。もうひとつは薬物治療の進歩で、特に分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤の貢献が大きい。

 すべてのがんで、手術と放射線、薬物治療の位置づけがステージごとに決まっています。それが標準治療で、ある治療が効かなくなると、次の治療に移行します。この治療選択において、前述の長男のコメントに重要なことがありました。

「積極的な治療の術がなく本人も延命を求めていない」

 この一言です。「積極的な治療の術がなく」は、薬物治療の選択肢がなくなったことを意味します。それで延命治療をしなかったようですが、それでも10カ月近く生存されました。

 その間、積極的な延命治療はせずとも、痛みを取り除く緩和ケアはされたでしょう。そうすれば、痛みや苦痛から解放され、家族と会話することができる。10カ月近くあれば、お互いかなりのことを伝えられます。

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