“闇医者”で手術して以来、詰まりやすくなって…俳優の松井誠さん胃腸トラブルとの闘い

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松井誠さん(俳優/63歳)=胃潰瘍・十二指腸潰瘍

 16歳の時に胃潰瘍と十二指腸潰瘍になって、胃の3分の2と腸を何センチか切りました。昔のことなので時効ですけど、15歳から新宿の歌舞伎町でホストをやっていたので、売り上げを上げるためにいろいろ無理をして胃腸を壊してしまったのです。

 そもそも私は全国を旅する大衆演劇一座の女座長から妊娠8カ月で生まれた超未熟児でした。しかも病院ではなく、芝居小屋の「奈落」と呼ばれる舞台下で生まれてしまったので、すぐに生命の危機がありました。周りに「もう死にますね」と言われたと聞いています。幼少期はいわゆる病弱な子供で、よくひきつけなどを起こしていたようです。

 両親が不倫同士だったり、きょうだいが10人ぐらいいるという複雑な環境の中、旅一座の宿命で40回以上も転校した末、私は舞台にも出してもらえず、中学を卒業。15歳で急に「舞台に出ろ」と言われた頃には、役者という職業が好きじゃなくなっていました。

 それで家出をして、知り合いのツテを頼って歌舞伎町のホストのヘルプとして雇ってもらったのです。そこでの無理がたたって、お店で血を吐いたというわけです。担ぎ込まれたのはいわゆる“闇医者”です。未成年で水商売ですからね。急きょ手術となり、実家に連絡したら「家出して勘当した子なので知りません」と言われたそうです。

 そのときに開腹手術で胃と腸の部分切除をしました。その後もすぐに水商売に復帰し、短期間で売り上げ上位のホストになりました。同伴(お客さんと観劇や食事などをしてから店に出勤すること)が多くなり、大劇場の舞台を見る機会にも恵まれました。そこでカルチャーショックを受けたのです。「自分が知っている芝居小屋とはまったく違う。こういう役者になりたいんだ!」と血が騒いで、水商売を辞めました。紆余曲折の末、目標のために2000万円の借金をし、25歳で劇団を立ち上げました。

歩けなくなり上からも下からも出血

 ところが手術して以来、腸が詰まりやすくなってしまい、疲労やストレスがたまると腸閉塞を起こすようになりました。これまでに10回ぐらい病院に行ったでしょうか。

 手術や入院となると仕事ができなくなるので、医者から「切りましょう」と言われるたびに「ほかの方法をお願いします」と言って、点滴で流したりしていました。腸閉塞に関しては、経験から詰まってくるときの感覚がわかるようになって、大事になる前に食事に気を付けたり、疲労を軽減したりすることも覚えました。

 おかげさまで大御所の役者さんの舞台に出させていただくようになり、40歳あたりから明治座や御園座などの大劇場で定期的に座長公演ができるようになりました。

 ところが今から13年前、50歳の時に、当時のビジネスパートナーとトラブルがあり、京橋にあった自社ビルを手放すことになって心身ともボロボロに……。そんなことがあったある日、仕事終わりでいきなり歩けなくなってしまいました。上からも下からも出血して、病院に行くと「胃を切りましょう」と言われました。

「でも1週間後に舞台があるんです」と言って手術を拒否すると、苦肉の策で出血しているところをクリップで留めて、「これでダメだったら切りましょう」と医者が折れてくれました。細い管を胃まで入れて最初に3カ所留めると、あとから別に2カ所出血してしまい、合計5カ所をクリップ留めして舞台を務めました。クリップは自然に溶けるものなので、それきりですが、その後は病院沙汰になるようなことにはなっていません。

 思えば、これまで何度も「手術しなきゃダメだ」「死にますよ」と言われてきました。でも結局、一度も舞台に穴をあけたことはないんです。それは自分でも「運がいいな」と思います。なんの偶然か私は「お釈迦様の誕生日」とされる4月8日生まれ。そんなことも、命拾いと関係しているような気がします。

 決して丈夫な体ではなく、胃腸は完璧ではないままですけど、舞台に出ると、走り回って、踊りまくってすごく元気なので、こんなに体を壊しているなんて周囲からは思われてないんじゃないかな。そのくせ、運動は嫌いで、ジムに通うこともなく、舞台前のストレッチもほとんどしません。みなさん舞台後にマッサージなどに行かれるようですが、それもあまりしません。じつは体が硬いんです(笑)。

 最近特に、年齢のせいか、動き過ぎなのか、日常生活でよくコケてます。今もそこの階段でコケちゃって、あちこちぶつけました(笑)。舞台では不思議とコケないんですけどね。

 いろいろな“痛み”を味わってきました。世間の怖さも味わいました。与えられた命の大切さは身に染みています。「勘当した」と言った両親も、最後は私の劇団に引き取って、2人とも私が葬式を出しました。今、舞台に立てることのありがたさをひしひしと感じています。

 あと何年舞台に立てるかわかりませんが、助けられたこの体で、手を抜くことなく、もっと自由に表現していきたいと思っています。

(聞き手=松永詠美子)

▽松井誠(まつい・まこと) 1960年、福岡県出身。大衆演劇の座長の子として生まれる。中学卒業とともに家出し、ホスト経験を経て25歳で劇団を立ち上げる。舞台のほか、2007年NHK大河ドラマ「風林火山」で北条氏康役を演じるなど、テレビや映画でも活躍。11月15~17日には、「松井誠プロデュース公演」の舞台が伝承ホール(東京・渋谷区)で行われる。



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