突然母が別人になった(1)私の脳がおかしいのかな…電話がかかってきた
年が明けてしばらく経った頃、「最近、S姉さん(母のこと)がゴルフにあまり行かなくなった」と叔母から聞いた。「すごく疲れる」「気分が乗らない」と、誘いを断るようになったという。
それでも5月には大会に出て、良い成績を収めたと電話がかかってきた。ようやく気分が上向きになってきたのだなと、私はすっかり安心していた。
今年の夏も暑くなるだろうと予感させる6月末。しばらく前から母は私にも頻回に電話をかけてくるようになっていた。
「最近手がしびれて震えるのよ」という、2度目の電話の内容に私はうっとうしくなり、「はいはい、用がないなら切るからね」と邪険に応じて電話を切ろうとしたが、その時の電話はいつもとは少し様子が違う感じがした。
「最近、手がしびれて震えるんだけど、お父さんが気のせいだと言って怒る。私の脳がおかしいのかな。病院に精密検査に行ったほうがいいかな」
母親の「ガラケー」には、鈴がついていた。話している間中、それがチリチリと音を立てているのが聞こえる。背中がヒヤリとした。もしかしたら一大事かもしれない。 (つづく)
▽如月サラ エッセイスト。東京で猫5匹と暮らす。認知症の熊本の母親を遠距離介護中。著書に父親の孤独死の顛末をつづった「父がひとりで死んでいた」。