拒食症で体重23キロに…料理研究家Mizukiさん「死ぬんだと思いました」

公開日: 更新日:

「料理」が自分と社会をつないでくれた

 半年入院して体重が27キロに増えて、命の危機は脱したということで退院しました。でもまたすぐに体重は減り、幻覚や幻聴も始まりました。それは、自らが「助けてほしい」と言って“生きてしまった”結果です。ひどい状態でも生きてしまったからには何かしなければいけないと思い、始めたのが料理でした。

 料理はずっと好きだったのです。体重を減らすという食へのこだわりが強かっただけに、食材のカロリーは完全に把握していました。ギリギリ立てる体で、自分は食べないのに家族の食事はコントロールしたいと思っていました。でも、タマネギを切ろうとしても切れなくて、「こんなこともできなくなったんだ」と涙が出たのを覚えています。それが24歳ごろでした。

 家族への申し訳ない気持ちが募る中、家から3~4時間かかる市内の病院の心療内科へ週1回通うことになりました。そこで出会った先生が自分にとってはしっくりきたんです。そして「次回までに少しでも太っていれば入院しなくていい」という約束をしました。

 でも、太れないまま通院日を迎えました。すると、母が私のポケットに小銭の入った小さな袋を入れたのです。少しでも重さを増やそうとしてくれて……。私はなんとも言えない気持ちになりました。病院へ行って体重を量ると目標の30キロを超えていて、先生がすごく褒めてくれました。けれど、いたたまれなくなって入院覚悟で白状したんです。そのとき先生は「いいよ」と言って、家に帰してくれました。

 そんなことがあってからのある日、ひとりで家の和室にいたら、障子から光が降り注いで、私を抱きしめてくれたような気がしたんです。自分で自分を抱きしめながら、「もういいよ」「もういいから」と声に出していました。すると何か勇気が出て、「何か食べに行こう」と母を外へ誘うことができたのです。

 ガリガリの体で近所のカフェを訪ね、シフォンケーキを1つ頼んで母と2人で半分ずつ。それを毎日、続けました。その後、夕食も外で母と半分ずつ毎日、食べました。栄養が入ると頭がクリアになって、やっと「病気の自分は間違っている」と認識できたのです。強い薬を使って、太ることへの恐怖を抑えられたのもいい方向に作用しました。

 その後も簡単ではありませんでしたが、「料理」が自分と社会をつなげてくれました。「ひとつ抜けたな」と思えたのはほんの2年前。レシピ本大賞で2位になったときでした。「悔しいけれど、こんなにうれしい2番はありません」と、負けを認める言葉が言えたのです。それが、病気から遠ざかる“何か”だったと感じています。

 この仕事を始めてから拒食症の人や家族から何百件も相談を受けてきました。この病気の人にとって、病気を治そうとする人は敵です。必要なことは「このままでいいよ。どんなふうになっても私はあなたが大好きだよ」と言って、安心させてあげることだと思います。

(聞き手=松永詠美子)

▽Mizuki(みずき)1986年、和歌山県出身。カフェ経営を経て、料理レシピをブログに投稿すると料理レシピランキングで1位になり、2014年にはレシピ本を出版。簡単・時短・節約をコンセプトにしたレシピを紹介し、瞬く間に人気料理研究家となる。22年、第9回料理レシピ本大賞準大賞を受賞。24年10月現在、インスタグラム(@mizuki_31cafe)では130万人以上のフォロワーを持つ。

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    エースの留年が影響か?昨夏王者・慶応まさかの県大会16強敗退…文武両道に特別扱い一切なし

  2. 2

    松本人志「事実無根」から一転、提訴取り下げの背景…黒塗りされた“大物タレント”を守るため?

  3. 3

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  4. 4

    《小久保、阿部は納得できるのか》DeNA三浦監督の初受賞で球界最高栄誉「正力賞」に疑問噴出

  5. 5

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  1. 6

    松本人志「文春裁判」電撃取り下げも待つのはイバラの道…“白旗復帰”画策にも視聴者・スポンサー・制作側から総スカン

  2. 7

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  3. 8

    2位「ライオンの隠れ家」、1位「わたしの宝物」を抜く勢い! 坂東龍汰が名作映画ファンの“批判”も封じた

  4. 9

    横綱照ノ富士が「引退できないジレンマ」から解放される日…在位20場所で12回目休場の崖っぷち

  5. 10

    中日・根尾昂に投打で「限界説」…一軍復帰登板の大炎上で突きつけられた厳しい現実