3階建ての居酒屋で面接…急階段を300往復と聞いて「無理だ」と断念
せっかく来たので飲食業界について質問した。やはり新型コロナの影響が大きいという。
「コロナのせいで家飲みする人が増え、居酒屋もお客さんは減りました。おまけに2軒、3軒と飲み歩いていたお客さんが1軒で終えて電車で帰るようになった。深夜タクシーの運転手もお客がいなくて泣いてますよ」
「今後、飲食業界の景気が元に戻ることはないでしょう。頑張ってもコロナ前の8割。良くて9割じゃないですかね」と結論づけた。
長年、包丁を握りつづけている人の言葉だけに説得力がある。
高校を辞めて割烹店に勤め、かなり厳しく指導されたという。
「若いころは料理長によく殴られました。奥歯が2本抜けたこともありますよ」
あれこれと質問する私にだんだん苛立ってきたようで、「うーん」とうなりながら深いため息をつくようになった。
「どうします。履歴書を預かりますか? それとも持ち帰りますか?」
私は魔の階段を安全に上り下りする自信がないうえに、杉崎氏の雰囲気に気おされて「持ち帰ります」と答えた。2日後、この店の運営会社から丁寧な不採用通知が届いた。
(林山翔平)