陸連白羽の矢 マラソン復活へ瀬古利彦氏に求められるもの
そもそもNTの選抜基準はあいまいで、代表メンバーが優先される制度も撤廃された。NT入りを辞退した公務員ランナーの川内優輝はそのあり方を舌鋒鋭く批判していた。
陸上ジャーナリストの菅原勲氏がこう語る。
「選手強化を企業の指導者に任せているのではなく、リオで初のメダルを取った競歩のように、NTに代表候補を集めて強化した方がいい。国の科学的サポートも受けられる。問題は、競歩選手と違って、社会人のマラソン選手は駅伝が本業ということ。瀬古リーダーは、この壁を破らなければならない。例えば、企業を回り『東京五輪のマラソンのために選手を我々に預けてください』と頭を下げるのもひとつの手。マラソン強化には強力なリーダーシップとマネジメント力が求められる」
■海外の重要性
一方では「国内での強化には限界がある」との声もある。ある陸上関係者が言う。
「今はどんな競技でも海外に出ていく時代。マラソンも海外でプロランナーと競い合うべきです。ボストンやシカゴで優勝した瀬古はもちろん、NTの山下、坂口コーチも海外で走らせることに積極的ですが、今の社会人ランナーはなかなか海外に出ていかない。記録のない日本選手が招待される時代ではないが、無理して強豪が集まる大会に出なくていい環境にあるからです。今の選手は会社と細かい出来高契約を結んでいる。自己記録更新や国内マラソンや駅伝で上位に来るとそこそこのボーナスがもらえる。倹約家の選手なら35歳ぐらいで引退して数千万円の貯金をした者もいる。そんな選手たちを海外で走らせるには、東京五輪の代表選考に海外レースを加えるプランなどを打ち出した方がいい」
今の陸連幹部にマラソン経験者はいない。「瀬古」の名前で新たなことに挑戦し、好成績につなげたい。現役時代、五輪では結果を残せなかった瀬古リーダーの手腕はいかに……。