横審が稀勢の里を推薦…急ぐ横綱昇進は実力不信の裏返し
例えば94年の貴乃花(現理事)だ。この年は1~9月の5場所で優勝3回、残り2場所も11勝という成績を残した。ところが、協会に諮問された横審は「2場所連続で優勝していない」として、昇進拒否の答申。去年最多勝の稀勢の里よりはるかに優れた成績でも、昇進はかなわなかった。
基準を満たした上での昇進なら、ファンももろ手を挙げて賛成する。しかし、日本人の横綱見たさに下駄を履かせれば、それは稀勢の里にとっても不幸な結末となりかねない。
「横綱は負け越せば引退という過酷な地位。関脇に落ちてもやり直しがきく大関とはわけが違います。メンタルに難がある稀勢の里は、それだけの重圧に耐えられるのか。せめて来場所も優勝なら十分自信はつくでしょうが……」(前出の中澤氏)
結局、相撲協会も横審も、稀勢の里の力を信じきれないのだろう。ハナから次の場所で優勝するとか、それに準ずる成績を残せるとは思っていないから、タナボタ優勝に、去年の年間最多勝だ何だのと、もっともらしい理由をつけなくてはいけないのだ。
98年の若乃花以来、19年ぶりの日本人横綱が確実となったが、本来ならとっくの昔に横綱になっていなければならない稀勢の里。初優勝にこれだけ時間がかかったのも、頂点に立つだけの力がなかっただけのことだ。強烈な「追い風」による昇進が決まり、本人は素直に喜べるのだろうか。