大坂なおみ抗議は米スポーツ界を動かした 日本はどうだ?
タテ社会、パワハラ、スポンサー
橋本聖子五輪相は28日の閣議後の会見で、大坂なおみら、スポーツ選手による人種差別への抗議行動が相次いでいる現状について問われると、「選手がしっかりした意見を持っていることは良いことだと受け止めてきた」「アスリートが自分自身の思いをメッセージ性を持って発信することに対して、しっかりと受け止めていく必要がある」と言ったが、そんなキレイ事を真に受ける選手はいないだろう。
例えば今年3月の一件だ。ソウル五輪女子柔道銅メダリストの山口香氏は現在、日本オリンピック委員会(JOC)の理事だが、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により、十分な練習ができない各国の選手たちから、東京五輪の延期や中止を求める声が上がっていたことを受け、通常通りの7月開催に異を唱えた。するとJOCの山下泰裕会長は「いろいろな意見があるのは当然だが、JOCの中の人が、そういう発言をするのは極めて残念」と、不機嫌な顔を見せた。
山口理事の発言はアスリートの声を代弁したもので、何らおかしな話ではない。自分もかつては柔道選手だったのに、JOCの会長になると、「一介の理事は、我々が決めた方針に従っていればいい」ということなのか。
日本では、スポーツ界の要職にある者が、自分たちにとって不都合な意見や出来事に対し、高圧的な態度でこれを封じ込めようとするケースは枚挙にいとまがない。レスリングや体操、大学のアメフトなどで、パワハラやモラハラの問題が浮上し、一時的に指導者が処分されることはあっても、しばらくすれば平気な顔をして現場に復帰することもある。
「これが日本のスポーツ界の現実であり、主張すべきときに発言できる選手が出てこない理由なのです」
こう語るのは、国士舘大非常勤講師でスポーツライターの津田俊樹氏だ。
「日本のアスリートは子供の頃から厳しいタテの関係の中で育ってきた。指導環境は多少は変わってきましたが、暴力指導やパワハラは今も根強く残っている。選手に、政治的な発言をペラペラ話せとか、いつも指導者に文句を言えというのではありません。どうしても自分の意見を述べなければならないときが必ずある。意を決して指導者などにモノを申せば、試合で起用されなかったり、チームを離れざるを得なくなる。そんなケースはザラにある」
さらに津田氏は、おとなしい日本のアスリートは社会がつくり出しているという。
「アスリートに対する世間の意識は、競技力に関してはリスペクトしても、『しょせんはスポーツ選手』という目で見ているのではないか。難しいことに首を突っ込んだり、あれこれ余計なことは言うなと。選手や競技団体を支援しているスポンサーも同じで、面倒な選手を嫌う。そんなもろもろの事情から、日本のアスリートは飼いならされているように、おとなしいのです」
■「たかが選手」
津田氏のコメントで思い出されるのは2004年に勃発したプロ野球再編問題のあのひと言だ。古田敦也選手会長(当時)が、オーナー陣との対話を求めると、巨人の渡辺恒雄オーナーは「無礼な! 分をわきまえなきゃいかんよ。たかが選手が!」と言い放った。いかに選手を見下しているかがよくわかるし、そうしたことはプロ野球界だけの話ではないだろう。
コロナ禍の中、東京五輪開催国のアスリートたちから、延期や中止を訴える声はほとんど聞かれない。大坂のような発信力のある選手は稀有だ。世界からはどんな目で見られているのだろうか。