日ハム新庄監督ポジション大胆シャッフルの裏に“野村イズム”「先入観は罪、固定観念は悪」
突然、マイクを通した新庄剛志監督(50)の大声がグラウンドに響き渡った。
「レフト、構えるな!」
【写真】この記事の関連写真を見る(24枚)
6日、日本ハムの一軍施設・名護で行われた今キャンプ初の紅白戦。といっても、そこはサプライズ男のビッグボスである。単なる試合になるはずがなく、鶴の一声で全打者が1死満塁の状況設定で打席に立ち、投手は打者3人で交代する変則ルール。
試合中はマイクを手にした新庄監督から、主に外野手や走者に対して「セカンドランナー! もう1歩、大きくリードとって!!」「ライトとセンター! 空き過ぎ、距離が。右! 右!」などとアドバイスが飛んだ。投球に合わせて、重心を落として構えていた左翼の杉谷拳士には、「構えるな! こういう感じで」と本塁後方から手本を示した。
「練習のための練習じゃなくて、やっぱりワンアウト満塁で打席に入って打ったらどれだけうれしいか。ピッチャーも抑えたらよっしゃー! ってなる。ワンアウト満塁でやってたら、無死一塁、1死一塁のときにどれだけリラックスできるか。続けていきます」
とは、ビッグボスの説明だ。
「試合途中、本塁後方から中堅の外野フェンス際に移動し、全体の動きを把握するように観察してもいた。驚いたのが、大胆なポジションシャッフル。外野手の万波中正を三塁、五十幡亮汰を遊撃、三塁手の野村佑希を左翼の守備に就けた。就任以来、繰り返し言っている『レギュラー白紙、横一線』は単に選手の競争意識をあおるだけの狙いではなく、あるコーチに聞いたら、『レギュラー白紙どころか、本職のポジション以外でレギュラーを取る選手も出てくるかもしれない。新庄監督は本当に横一線で考えている』と言っていた。就任直後の秋季キャンプでも各自に本職以外のポジションでノックを受けさせていたが、初の実戦でもやらせるのだから本気なのでしょう。戸惑っている選手も中にはいるでしょうが、みんな目の色が変わっているように感じますね」(球団OB)
選手に新たな「気付き」を期待
実際、粗削りだが身体能力の高い万波が内野もできれば、出場機会は広がる。
球界トップクラスといわれる五十幡の脚力を、遊撃手としての守備範囲に転化できないか。三塁手として昨季チームワーストの16失策を記録した野村を左翼に回して守備の負担を減らせば、持ち前の打撃に好影響を与えるかもしれない。
評論家の橋本清氏がこう言う。
「野村克也元監督の語録で『先入観は罪、固定観念は悪』というのがありました。新庄監督はその野村さんを『野球界のお父さん』と言って慕っていた。自身も野村監督時代の阪神で投手に挑戦、野村監督はのちに『投手をやることで、投手の気持ち、捕手の気持ちを学べば、打撃に生きると考えた』と振り返っています。複数のポジションを経験させることで、選手が新たな『気付き』を得ることを新庄監督も期待しているのだと思いますが、新庄監督だからこそという感じはしますね。引退後は球界と距離を置き、就任会見では『選手の名前と顔をほとんど知らない』と言っていた。野村監督じゃありませんが、先入観も固定観念も持たないからこそ、大胆なことにチャレンジできる。そもそも、性格的に先入観、固定観念なんて関係ない! というタイプ。それが新庄監督の最大の強みだと思います」
本職の外野でレギュラー奪取を狙う2年目の今川優馬は、内野手の野村と細川凌平が外野守備に就いたことに、「正直、焦ります。打つのもそうですけど、守れなければ自分のポジションがなくなってしまう。危機感を覚えています」と顔をこわばらせていた。
■レギュラー故障への備えや危機管理
紅白戦前のブルペンでは、昨季28セーブの杉浦稔大の投球を見て「いいねえ、いいすねえ。杉浦くん、楽しみ」と絶賛。続けて、「どこで使おうか。あのボール見たら、どこでも使いたくなる。見ていてください。ここで使うの!? って」と守護神の配置転換も考えている口ぶりだった。
「現実問題としては、昨季まで3年連続5位の日本ハムは戦力に不安を抱えている。実績と経験のあった西川遥輝、大田泰示、秋吉亮を放出しながら、新たな補強は外国人のみ。現有戦力を有効活用しないことには、上位進出は難しいという事情があります。故障などの不測の事態が起きても、なんとか今いる選手でカバーし合わなければいけない。ポジションのシャッフルや配置転換はそのための備え、危機管理でもあるはずです」(前出の橋本氏)
この日、日本ハムのキャンプを訪問した侍ジャパンの栗山英樹監督は、昨季まで10年間にわたって率いた古巣の雰囲気を、「(新庄監督就任の)戸惑いとか、緊張感が集中力につながっている」と評した。長期政権で倦んだチームの空気を一新しようと、新庄監督のあの手この手は続く。