「夢に相撲が出てきて目が覚めるんすよ」曙が見た新大関全休の奈落
今場所も1992年名古屋場所と酷似
この頃は横綱がいなかった。曙は夏場所、13勝2敗で初優勝して大関昇進を決めたが、場所前に一人横綱の北勝海(現八角理事長)が引退していた。
大関も2人のうち霧島(先代、現陸奥親方)は途中休場した。曙は横綱戦がなく、大関戦も小錦とだけ当たって負けている。前場所は8勝。番付事情と優勝を加味して決まった昇進だった。
豊昇龍、大栄翔、若元春の3関脇に大関同時昇進の可能性がある今場所も、番付の状況は似ている。照ノ富士が4日目から休場し、このままなら上位は霧島だけとなって、3人とも関脇以下にしっかり勝てば必要な星勘定は満たせる計算になる。上位との対戦は昇進に値する力量を見極める材料だが、その時々の状況は運でもあるから、上位戦がないのは当人たちの責任ではない。むしろ運を生かしてチャンスをものにしなければ、もう機会はないかもしれない。
3人同時昇進が実現すれば史上初だという。景気のいい話だが、前売り券の売れ行きはいまひとつだった。後半に向けてどんな盛り上がりが見られるか。31年前は、大ピンチを脱した曙が次の九州場所、93年初場所と連続優勝して横綱に昇進する。同時に貴花田改め貴ノ花(のちの貴乃花)の大関昇進も決まり、大相撲新時代の幕が上がった。
▽若林哲治(わかばやし・てつじ)1959年生まれ。時事通信社で主に大相撲を担当。2008年から時事ドットコムでコラム「土俵百景」を連載中。