「ブルース」桜木紫乃氏

公開日: 更新日:

 物語は、落ちぶれた社長夫人が目に留めた新聞の訃報記事、「影山グループ代表・影山博人(享年52歳)」から始まる。著者には珍しく、男が主人公だ。

「私が描く男は、女々しくてだらしない男ばかりと言われてきたので、たまにはいい男を描いてやろうと思ったんです。そのとき頭に浮かんだのが、『太陽にほえろ!』の殉職シーン。私の中では、いい男は生き急いでいて、長生きしないイメージがあって(笑い)。書き進めるうちに、ペンが道端に生える雑草のような強さを持つ、そんな男を生みだしました」

 霧深い釧路の街の、人々がさげすむ「崖の下」の長屋で父親を知らずに育った博人には6本の指があった。そんな過去を持つ博人に引かれた8人の女たちの視点で物語は紡がれていく。冒頭の「恋人形」では、中学3年の牧子が興味本位で近づき一夜を過ごした同級生・博人の過酷な少年時代を、第3章「鍵」では、博人をかつて“買った”主婦・美樹が、数年後、博人と再会し身も心も溺れていく日々を語る。

女性たちが博人に引かれるのは性の快楽だけでなく、博人が持つ薄暗い影なんですね。博人は不幸な出自ですが、その後の育ち方は自分で選び取った。つまり、プライドのボルテージを自分で設定して生きてきた男なんです。銀の匙をくわえて生まれてきた男より、自分でまっとうをつくった男のほうがオスとして強い。しかも、そこに影を感じるとなれば、女は引かれずにいられませんから」

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高嶋ちさ子「暗号資産広告塔」報道ではがれ始めた”セレブ2世タレント”のメッキ

  2. 2

    フジテレビ「第三者委員会報告」に中居正広氏は戦々恐々か…相手女性との“同意の有無”は?

  3. 3

    大阪万博開幕まで2週間、パビリオン未完成で“見切り発車”へ…現場作業員が「絶対間に合わない」と断言

  4. 4

    兵庫県・斎藤元彦知事を追い詰めるTBS「報道特集」本気ジャーナリズムの真骨頂

  5. 5

    歌手・中孝介が銭湯で「やった」こと…不同意性行容疑で現行犯逮捕

  1. 6

    大友康平「HOUND DOG」45周年ライブで観客からヤジ! 同い年の仲良しサザン桑田佳祐と比較されがちなワケ

  2. 7

    冬ドラマを彩った女優たち…広瀬すず「別格の美しさ」、吉岡里帆「ほほ笑みの女優」、小芝風花「ジャポニズム女優」

  3. 8

    佐々木朗希の足を引っ張りかねない捕手問題…正妻スミスにはメジャー「ワーストクラス」の数字ずらり

  4. 9

    やなせたかし氏が「アンパンマン」で残した“遺産400億円”の行方

  5. 10

    別居から4年…宮沢りえが離婚発表「新たな気持ちで前進」