「ビジュアル版 日本の妖怪百科」岩井宏實監修
その他、富士山を背負って歩いたという巨人「ダイダラボウ」や、もとは片目や片足の「神さま」だったという「一つ目小僧」や「一本ダタラ」などの山の妖怪をはじめ、海や川にすむ水の妖怪や、村や町などの人の生活圏に出没する妖怪、そして家や毎日使う道具などに宿る妖怪まで、100種以上の妖怪を分類、網羅する。
中には、長さが10キロメートルもあり、島だと思って近づくと海の底に沈んでしまう巨大魚「赤えい」という破格サイズの妖怪や、京都府亀岡市の西光寺近くのカヤの木の下に出現してそろばんをはじく音をさせるという「そろばん坊主」などの地域限定妖怪など、初めて目にするものもいる。
歌川芳員や歌川国芳ら手だれの絵師らによる妖怪画も見応え十分。月岡芳年が描く「楠多門丸古狸退治之図」などは、妖怪狸と楠多門丸(楠木正成の息子・正行のこと)の戦いの背後の闇夜にうごめく百鬼夜行が提灯の明かりに照らされ、一部だけ垣間見えるといった趣向で、芸術性と物語性を併せ持った秀逸な出来栄え。その他、河鍋暁斎や伊藤若冲など、巨匠たちの妖怪画も多数収録され、美術的な楽しみ方もできる。