“作品に触れる”造本に驚嘆
225×300ミリ。本文224ページ。コデックス装。「背」はかがってあるものの剥き出しで、特殊な糊で固めてある。この製本は開きが良く、机に置いたまま楽に開くことが出来る。さらに通常、ガーゼ状の布=「寒冷紗」で背を補強するが、本書では作家オリジナル「藍染めよろけ麻布」を使用。もったいなくも、表紙掲載作品の素材を断裁しそのまま使用。文字通り「作品に触れる」ことの出来る造本になっている。一方棚差しの場合、カバーがないため、この藍染めの麻布が鮮烈なアイキャッチとなる。本来あるべき背表紙のタイトル/著者名の代役を務める粋な計らいだ。
さて、「藍」の染め付け部分よりも、広く染め残した「白い生成り」を際立たせようとする、逆説的コンセプトは示唆に富む。「間」を生かす作家ならではの「引き算」の美。それは、着物を解き平面に縫い合わせタピスリーとして再生する「古布」という作品群に最もよく体現されている。
本書の記憶が消えぬ間に、実物の展示会場に行ってみたい。作品群が織りなすたおやかな空間で、しばし佇んでいたい。そんな気にさせる一冊だ。(赤々舎 8000円+税)
▽みやぎ・あずさ 工作舎アートディレクター。1964年、宮城県生まれ。東北大学文学部仏文科卒。1990年代から単行本、企業パンフレット、ポスター、CDジャケットなど幅広く手掛ける。