「黒田騒動」が舞台の歴史長編を上梓 葉室麟氏に聞く
交易が盛んな九州では商売人も大名も、何かしらキリシタンと結びついている。ルソン攻めをしたい家光はその現状が苦々しい。物語は、黒田家を巡り、密貿易を行う采女正、細川家からの刺客などが入り乱れ、すさまじい暗闘が繰り広げられていく。
「偶然にも徳川家光も黒田忠之も3代目。現代の企業でも同じですが、3代目というのは自力で権力を掴んだわけではないのでどうしても功名心にかられるし、昔からいる重臣とも反目しあうわけです。忠之のルソン遠征の野望も家光のルソン攻めのもくろみも構造としては同じなんですね。そういう同じ構造の中にあってキリシタンと縁を持つ藩をつぶしたいという幕府の意思、九州大名の複雑な関係と二重三重の困難を切り抜けるにはすさまじいまでの謀略があったのではと思います」
加藤家が取り潰され、次なる標的は我が藩と気づきながらも、大膳は忠之に歩み寄ろうとはしない。それどころか、幕府に「藩主に謀反あり」と訴え出たのだ。大膳の動きはまるで反逆そのものだが、読み進むにつれ、大膳が打った数々の布石が一つ一つつながってくる。
「私がこの物語で書きたかったのは、大人の男のありようなんです。誰に対しても遠慮なくものを言い、緊急時でも忠之に従わない大膳は、ある意味では正直でウソを言わない男です。そういう男って、現代の企業で考えてもダメじゃないと思うんですね。周囲には『なんだこいつ』と思われてるけど、彼なりに、会社を生き延びさせるためのモノを掴んでいて、ときには強引に話を通してしまう。正論を吐いても通らない世の中で、そこを通していくには、人間としての器量が必要です。それを含め、私が大人の男の魅力として、持っていてほしいと思うものを、大膳に体現させました」