肩から力が抜けたアナキズム研究者
非常勤大学講師をしている政治学者の著者は173センチ、52キロで自分のことを弱いと考え、さらに年収も100万円以下だと述べている。さらには、20代後半の女性を口説いたら激怒されたと書き、モテないことを嘆いている。
〈よりによってわたしのようなクズというか、かせごうともしない人間から好きだといわれたわけである。おそらく、そういうふうにクズから口説けるとおもわれてしまったこと自体が、かの女にとっては屈辱だったのだろう。そりゃあ自尊心も損ねてしまう〉
とにかくどこか力が抜け、デモに参加したといってもあくまでも好奇心や研究心から参加した、という解説を加える。これは、60年安保に参加した往年の闘士が、昨今の国会前デモがフェスかのような平和的様相を呈していることに肩透かしを食らうのと同じことだろう。アナキズム研究をしているものの、自らの主張はそれほどせず、主張自体は大杉らの著書からの引用を行い、解説を加えていくスタイルを取り、自身のマッチョな主張はない。
その点が若干まどろっこしい部分はあるものの、決して今の世界が自由にあふれているものばかりではない点、恋愛でさえ暴力であるといった点の指摘は新たな視点を与えてくれるだろう。★★(選者・中川淳一郎)