「デッドヒート Final」須藤靖貴著
2020年の東京オリンピックを描く小説が早くも登場だ。舞台は男子マラソン。日本代表となった走水剛の視点で語られていく。「暑い暑い暑い」という冒頭の1行から全編が独白である。つまりマラソンのスタートからゴールまでを、選手の視点で描いていくのだ。その間を縫うように、さまざまな人のインタビューが挿入されていく。まずは走水剛に走ることの厳しさ、楽しさを教えてくれた中学、高校、大学、社会人時代の恩師たちだ。そして、それぞれの時代の友人たち、さらには剛の父親で将棋棋士の走水龍治という身内まで登場する。
そのインタビューを読み進むと、走水剛がどういう少年であったのか、これまでにどんな苦労があったのか、日本代表に選ばれるまでの軌跡がわかるように仕立てられている。秀逸な構成といっていい。実はこれ、全6巻の最終巻である。しかしそういう構成であるので、本書だけを読んでも十分に面白いのだ。
第1巻から順に読む必要はなく、この第6巻の本書が面白ければ、その後でさかのぼればいい。大学時代に剛からファンキーと呼ばれていたNHKアナウンサーの飛松紀世彦は、どんなファンキーぶりであったのか、そういう細部を知ることができるから、さかのぼる読書も悪くはない。