「金融ジェロントロジー」清家篤編著
金融ジェロントロジー、すなわち「金融老年学」。「健康寿命」に加えて「資金寿命」も延ばし、「生命寿命」とのギャップをできるだけ縮小することが、超高齢社会に突入する日本の緊急課題だ。
慶応義塾大学の医学、工学、経済学、法学などの研究者が集い、野村資本市場研究所が参画して行われた学際的研究の成果をまとめたのがこの本。極めて今日的な提言がなされている。
現代社会の仕組みは、判断力を持つ個人を前提につくられている。しかし今、変革の必要に迫られている。例えば、財産管理能力を失った認知症の高齢者に、金融業界はどう対応すべきなのか。「長寿のリスク」を回避し、資産寿命を延ばすためには、「運用しながら取り崩す」新しい金融サービスが必要ではないのか。
医療と福祉を支えるテクノロジーの実用化、高齢者の働き方の見直しなど、日本は世界に先がけて壮大な社会実験に直面している。難題は山積みだが、研究チームは決して絶望していない。「実はチャンスに満ちた時代が私たちの前に広がっている」と前を向く。超高齢社会を乗り切る技術と経験をビジネス化し、市場を開拓し、世界に貢献するという未来図は日本人を勇気づける。
(東洋経済新報社 1600円+税)