メディアの危機

公開日: 更新日:

「『ポスト真実』と対テロ戦争報道」永井浩著

 ネトウヨからの攻撃と権力への「忖度」、そして部数減に悩む大手新聞。まさにメディアはいま未曽有の危機に立ち往生している。



「フェイクニュース」(偽ニュース)と並んで16年米大統領選で話題になったのが「ポスト真実(トゥルース)」。オックスフォード英語辞典によれば「客観的な事実より、感情や個人的な信条へのアピールの方が影響力をもつ状況」。つまり「聞きたいことだけ信じる」大衆と、それをあおるポピュリズムというわけだ。

 毎日新聞の海外特派員だった著者はイラク戦争開戦の際、ブッシュ政権は開戦世論形成のために「テロの恐怖におびえる国民感情にアピールする偽情報を流し、主流メディアはフェイクニュースの発信に加担した」と断じる。しかし米英マスコミはその過ちに気づき、少なくとも事後の検証は徹底した。

 ところが「問題は、日本の政府とマスコミ」。政府の検証作業は大幅に遅れただけでなく、外務省は「武力行使を支持したことの是非自体について検証の対象とするものではない」と頬かむり。しかも主流マスコミもそれをやすやすと受け入れてしまったのだ。日本マスコミの劣化は現政権ではなく小泉時代からなのだ。

(明石書店 2800円+税)

「権力と新聞の大問題」望月衣塑子、マーティン・ファクラー著

 菅官房長官の定例会見で質問を繰り返す女性記者が衆目を集めた。それが東京新聞の望月記者。社会部記者として詰めていた東京地検特捜部の会見などでは同じ意味の質問を何度もしつこく繰り返すのは「珍しくもなんともな」かった。

 ところが政治部記者が大半の官邸詰めになったとたん、周囲の記者からも「またおまえかよ」という視線が飛んできたという。対談相手のNYタイムズ前東京支局長ファクラー記者によれば、日本の記者クラブ型報道は「アクセス・ジャーナリズム」といい、「いつも当局の発表を待って、それを伝えるだけの受け身」になりがち。米国でもイラク戦争報道でタイムズ紙の有名記者が当局のまことしやかなリークで大誤報を出した苦い経験があることを紹介する。

 権力がメディアに圧力をかけたがるのは世界共通。安倍政権の姿勢でさえ「各国の政権に比べて、そんなに強硬な弾圧だとは思えません」。しかし日本のマスコミは「あっさり圧力に屈するような形になって政権に利用されてしまう。闘い慣れていないから、すぐに負けてしまうのです」という指摘は耳に痛い。(集英社 860円+税)

「戦場放浪記」吉岡逸夫著

 東京新聞の報道カメラマンだった著者の人生はすさまじい。4歳で母を、17歳で父を亡くし、専門学校を出て海外青年協力隊で海外放浪。27歳で新聞社に入社してから米コロンビア大のジャーナリズム大学院に1年間留学。その後、冷戦末期の東欧から湾岸戦争、カンボジア内戦、ルワンダ内戦と「戦場放浪」が始まる。

 さらに43歳でカメラマンから記者に転向。同時多発テロでアフガン取材に出る。社内でも敵味方のはっきり分かれるタイプだったようだが、昔気質のジャーナリストの気骨が伝わる。波瀾万丈の報道人生活を送った著者は今年2月、すい臓がんのため66歳で死去。本書が遺著となった。合掌。 (平凡社 840円+税)

【連載】本で読み解くNEWSの深層

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 2

    “氷河期世代”安住紳一郎アナはなぜ炎上を阻止できず? Nキャス「氷河期特集」識者の笑顔に非難の声も

  3. 3

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  4. 4

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  5. 5

    大阪万博の「跡地利用」基本計画は“横文字てんこ盛り”で意味不明…それより赤字対策が先ちゃうか?

  1. 6

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  2. 7

    大谷「二刀流」あと1年での“強制終了”に現実味…圧巻パフォーマンスの代償、2年連続5度目の手術

  3. 8

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ

  4. 9

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  5. 10

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…