「43回の殺意」石井光太著
2015年に川崎の多摩川の河川敷で起こった中学1年生殺人事件を追ったノンフィクション。当事者の思いや背景、報道されない経緯の真相をあぶりだす。(双葉社 1500円+税)
■居場所がない少年たち
冒頭、プロローグを読むだけで胸が苦しい。殺害された少年の痛みと苦しみ、無念が伝わってる。理不尽で凄惨な事件に憤りと疑問もおぼえる。
「この事件」の被害者も加害者も未成年のため、警察は発表に慎重だったが、メディアの報道は過熱。事件現場には約1万人が訪れ、少年の死を悼んだ。また、ネット上でも狂騒が始まった。犯人特定が勝手に行われ、個人情報が流出。加害者少年や家族への人種差別を含む誹謗中傷、さらには被害者少年の父母に対するバッシングまでが拡散された。
なぜ、この事件はここまで多くの人の心を捉えたのか。著者は緻密な取材と執筆に定評がある作家だ。当事者の思いや背景、報道されない経緯の真相をあぶり出し、問題提起も行う。ただ、今回は少年犯罪でプライバシー保護の壁も高く、取材対象に多少偏りがあることを危惧している。それでも数々の疑問の答えを探り、事件の深層に到達した感がある。家庭にも学校にも「居場所がない」少年たちの心の声に、真摯に耳を傾ける大人は実に少ないということだ。 今年の本屋大賞「ノンフィクション本賞」候補作。