「プログラミング教育はいらない」岡嶋裕史氏
2020年度から、小学校でプログラミング教育が必修化される。プログラミング言語を操るプログラマーの英才教育が行われるということは、日本からもビル・ゲイツやザッカーバーグのような傑物が輩出される時代がやってくる!? と考えてしまうが、そう単純な話ではないと教えてくれるのが本書である。
「子どもたちに難しいプログラミング言語を覚えさせたり、それをひたすらコンピューターに打ち込んでいくような教育では意味がありません。ひとつのシステムを作る中で、プログラミングは膨大な制作プロセスのごく一部に過ぎず、また少しずつ自動化が進み、AIに任せられる時代も近づいている。そういう意味で、プログラミング技術だけを学ぶ教育はいらないんです」
本書では、これから始まるプログラミング教育の本質について解説している。センセーショナルなタイトルだが、著者は大学でプログラミングの授業を持ち、子ども向けのプログラミング教育について企業とも連携しており、実は、小学校でのプログラミング教育の必修化には賛成なのだ。
「文科省が公表している『小学校プログラミング教育の手引』は、プログラミング教育を通じて“プログラミング的思考”を育むと記述され、プログラミングの技能習得自体をねらいとはしないと明示されています。プログラミング的思考とは、自分が意図する一連の活動を実現するため、どのような動きの組み合わせが必要で、どう改善すれば意図した活動に近づくのかなどを論理的に考えていく力のこと。多くの小学校はまだ様子見、情報収集の段階ですが、プログラミング的思考を育む授業を必修化する意味はあると思います」
実際、必修化されても「プログラミング」という新たな教科が加わるわけではないという。理科の授業で電気の点灯制御にプログラミングを活用したり、算数で正多角形の作図を学んだり、音楽でリズムやパターンを組み合わせた曲づくりを行うなど、すでにある教科の中でプログラミングを体験していくそうだ。
「子どもたちにさまざまな場面でプログラミングを体験させることの利点のひとつが、失敗を体験しやすいことです。コンピューターは論理的機械ですから、論理が破綻していれば動いてはくれません。しかし、トライ・アンド・エラーを何度も経験することで、問題解決能力が育ちます。プログラミング言語を叩き込むだけの授業ではそれは不可能ですが、体験によってプログラミング的思考を伸ばす教育であれば、私は賛成です」
プログラミング教育を受けて成長する子どもたちは、単に天才プログラマーになるのではなく、相手への最適な指示の仕方や、相手が求めることを感じ取り、伝える能力に長けた人材に成長する可能性があるということ。これはすべてのビジネスパーソンに求められる資質と言える。
「どんな企業でも、今や情報システムをまったく使わずに行える業務はほとんどありません。企業やプロジェクトのトップも、プログラミングについて最低限の知見は持っている必要があるでしょう。多くの人がプログラミング的思考を身に付けていれば、仕事の効率化や円滑化が進むはずです」
本書では、基礎的なプログラミング言語から教育現場の課題などにも言及。ビジネスパーソンに必要なプログラミング的思考の基本を知るためにも、手に取ってみてはいかが。
(光文社 740円+税)
▽おかじま・ゆうし 1972年、東京都生まれ。中央大学大学院総合政策研究科博士後期課程修了。富士総合研究所勤務などを経て、中央大学総合政策学部准教授・国際情報学部開設準備室副室長。「ポスト・モバイル」「数式を使わないデータマイニング入門 」「個人情報ダダ漏れです! 」など著書多数。