「読書会入門 人が本で交わる場所」山本多津也氏
「初めて参加する人の多くは、最初は不安だったと言います。けれど多くの人が『猫町倶楽部』にハマってくれて、13年続けてこられました」
2006年、4人でスタートした読書会は、今や名古屋を拠点に全国5都市で開催、1年間の延べ参加人数は約9000人、1度の読書会に集まる人数は最大300人という巨大読書会コミュニティー「猫町倶楽部」に成長した。この会を主宰する著者が、成り立ちから運営方法、読書会に参加する醍醐味をつづったのが本書である。
「自分一人で本を読んでいても、僕の場合、1年後にはだいたい内容を忘れています(笑い)。自分の中だけで考えていることって、たいしたことないと思うんですね。それよりも人に感想を伝えたり、人の感想を聞いたりする中で立ち上がってくるもののほうが、よほど大事。複数人で楽しく感想を語り合ううちに、思いがけない発見や気付きに至るのが、読書会の良さだと思います」
本書には、太宰治の「人間失格」を読んで意外や、「勇気が出ました!」と参加者が話すのを聞き、そんな読み方もあるのかと、著者が驚く体験もつづられる。そもそも読書会とは“みんなで読む読書”。その歴史は古く、日本で読書会が始まったのは江戸時代で、当時は「会読」と呼ばれていた。明治になると廃れたというが、このシェアの時代に再び脚光を浴びている。
猫町倶楽部への参加条件は1つで、指定された「課題本」を読了していること。
「課題本を選ぶ観点のひとつが脳に汗をかく本です。せっかく読書会で読むのだから、一人だと読了しにくいような大長編や、難しい本を選ぶこともあります」
たとえばカントの「純粋理性批判」やドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」など。自分では手に取らない本を読むきっかけを与えてくれるのも読書会の魅力だ。
「読書会の参加ルールはたった1つ。他人の意見を否定しないことですね。すべての人が話しやすい場を心掛けてきました。どんな会でも長くやっていると、どうしても常連の人たちが醸し出す“常連感”が出てくると思うんです。それが新しく来てくれた人にとって、『ココに入りたい』と思えるものならいいのですが、『ココには入れない』と引いてしまうものではダメなわけで、微妙なさじ加減が大事になります。猫町倶楽部は、できるだけヒエラルキーをつくらないようにしています」
参加のハードルは低く、しかし、一度入ったら、何度も通いたくなる仕掛けが用意されているのも人気の秘訣だろう。
たとえばドレスコードが設けられたり、課題本の著者がゲストで登場することもある。作家らがDJを行うクラブイベントも盛況だという。
「読書会を読書だけで完結させたくなかったんです。読書を入り口に、いろんなものにアクセスしてほしいという意識でやっているんですね」
そんなコミュニティーは“出会いの場”としても注目を集めている。
「昨日も1組、結婚の報告を受けました。メンバーには既婚者もいますが、30代がいちばん多いので、独身も多い。独身の男女が集まって長い時間を過ごせば、結婚する人たちが出てくるのは自然の成り行きなんじゃないかと僕は思っています」
それでもまだ、読書会はマイナー文化だと山本さんは自覚している。
「読書会で本を読む文化を根付かせたい。読書好きはみな、どこか自分に合った読書会に参加している、というのが一般的になったら最高ですね」
(幻冬舎 780円+税)
▽やまもと・たつや 1965年、名古屋市生まれ。日本最大規模の読書会コミュニティー「猫町倶楽部」主宰。住宅リフォーム会社を経営する傍ら、2006年から読書会をスタート。名古屋のほか東京や大阪などで年200回ほど開催し、延べ約9000人が参加している。本書が初めての著書となる。