「遊王 徳川家斉」岡崎守恭著
第11代将軍・家斉は、山のような側室を抱え、50人以上の子どもをつくり、「種馬公方」などと揶揄(やゆ)され、映画やドラマでは常に脇役扱いで、きちんとした評伝も見当たらない。しかし、歴代1位の50年という長い期間、将軍の座にあり、征夷大将軍と太政大臣を兼任したのも家斉だけだという。
家斉時代は、とりわけ太平の世とされ、豪奢(ごうしゃ)な時代が醸した自由な気風の中で、歌舞伎や浮世絵などの文化が花開き、娯楽は庶民にまで浸透。明治時代に古き良き時代として懐かしがられたのも家斉の文化文政の世だ。
徳川家の正史である「徳川実紀」で「遊王」と総括されるほど、のびやかな権力者生活を送った家斉のその人生と、彼が生きた時代をさまざまな視点から分析する歴史読み物。
(文藝春秋 850円+税)