「神々への美宝」宗像大社企画・監修、山村善太郎写真
玄界灘に浮かぶ世界遺産・沖ノ島には、4世紀後半から9世紀末まで使用された古代祭祀の遺跡が残る。宗像大社の神領である島全体が信仰の対象で、「神宿る島」として立ち入りが厳しく制限されてきたため、遺跡は手つかずのまま現代へと受け継がれてきた。
本書は、昭和の学術調査で同遺跡から発掘された神々への捧げもの「神宝」を紹介する写真集。
ページを開けると、まず目に飛び込んでくるのは表紙にもなっている6~7世紀の「ガラス製小玉」。透明感がある海のような涼やかな青色やひすい色をしたガラス玉が糸でつながれている。写真では、数珠かブレスレットのようにも見えるが、そのガラス玉の一粒一粒は0・2~0・5センチという小さなものだ。
青色のほかにも、鴬色や紫のように濃い藍、黄色などさまざまな色のガラス玉や、碧玉や滑石を管状に細工した管玉などもある。
同じようにガラスや碧玉、瑪瑙、水晶などを細工した「勾玉」も多数見つかっている。
装身具に使われたものなのか、それとも祭祀に用いられたものなのか分からないが、どれも1000年以上も風雨にさらされてきたとは信じられないほど、原形をとどめ、美しい輝きを放っている。
日本最古の歴史書「日本書紀」(720年)には、天照大神の神勅として「汝三神 宜しく 道中に降居して 天孫を助け奉りて 天孫に祭かれよ」と記されている。
これは宗像三神に対して「大陸との要所である玄界灘に降臨して、歴代天皇をお助けすれば、歴代天皇から祭られる」の意で、沖ノ島が古代から海外との交流拠点であり、国家の重要な場所であったことが分かる。
「神宝」は、航海の安全と交流の成就を祈る祭祀の際に神々へ捧げられた奉献品で、発掘された約8万点全てが国宝に指定されている。本書で紹介されているのは、宗像大社神宝館に収蔵されているその8万点のほんの一部である。しかし、その写真を見ているだけで、ここに集まった奉献品々が当時の日本でどれほど貴重なものであったかがよく分かる。
ガラス玉や勾玉の他にも、香炉のような透かし彫りの器や祭器と思われるさまざまな品、そして凝ったデザインが施された馬具の「杏葉」、現代のベルトのバックルと全く同じ構造の帯金具などの金銅製品が並ぶ。中には金銅製のミニチュアの「高機」(織機)や「五弦琴」など、さながらピラミッド内の埋葬品を思わせるような品々まである。
さらに教科書でお馴染みの4世紀の「三角縁三神三獣鏡」をはじめ、黄金の指輪や須恵器まで。
時空を超えた神宝の数々が読者を古代へのロマンへとかきたてる。
(求龍堂 1818円+税)