「言葉を離れる」横尾忠則著
美術界の巨匠によるエッセー集。
古希を迎える前後、集中して読んだ中野孝次がその著作の一冊で、少年時代から読書の悦楽に耽(ふけ)り、読書の魔に取りつかれたような日々を回顧し、読書の喜びを与えてくれた「運命」に感謝していた。対する著者は、10代の終わりまで約20年間、読書とは無縁の少年時代を送ってきた。中野も自分も本が一冊もないような家庭に育ちながら、なぜこのような違いがあるのか。「宿命に気づく時」と題された一文では、自分に読書の興味と機会を与えてくれなかった「運命の謎」を探る。ほかにも、加齢とともに「ぼくの中の言葉の量が日増しに失われていく」のを実感しながらつづった表題作など、19編を収録した講談社エッセイ賞受賞作。
(講談社 640円+税)