「生者のポエトリー」岩井圭也著
気象庁の技官だった山田公伸は妻の杏子を亡くして、喪失感を抱えて生きていたが、ある日、駅前で、携帯電話から流れる伴奏に合わせて、叫ぶように歌っている青年を見た。1時間近く歌って青年はその場を去った。
この冬いちばんの寒さが襲った日、公伸は胸に激しい痛みを感じた。逆流性食道炎との診断だったが、生きているうちにその証しを残そうと思った。駅前であの青年が歌っているのを見てまぶしいと感じ、帰宅して、妻の朗読ノートを引っ張りだした。杏子は朗読サークルに入っていたが、公伸は参加したことはなかった。だが、このとき、公伸はある決意をする。(「幻の月」)
心に染み入る6つの連作短編集。
(集英社 1870円)