「孤蝶の城」桜木紫乃著
釧路の家を15歳で飛び出し、札幌、東京、大阪の夜の街、やがて芸能界へと足を踏み入れたカーニバル真子こと秀男がモロッコで造膣手術を受けるシーンから物語は始まる。
術後は人工膣から膿(うみ)が流れ、高熱や貧血に苦しんだが、ようやく手に入れた女の体に薄いショーツはぴたりと張り付いて、様子がよかった。そして秀男が帰国するとマスコミはグラビアだ、インタビューだと追いかけまわし、秀男が看板で踊る日劇ミュージックホールでの特別公演は、連日立ち見の盛況ぶりをみせる。
しかしどれほど人気が出てもいつか「性転換お色気路線」は飽きられる、という恐怖が秀男を苦しめる。歌手、地方公演に打って出、演技の勉強に打ち込むが、秀男の心は休まらない──。
秀男の思春期を描いた「緋の河」の第2部にして完結編となる本書。秀男のモデルは、小説同様「日本で最初に女の体を手に入れた」カルーセル麻紀だ。
秀男が愛した小説家との出会いと別れ、昭和歌謡界、男たちとの駆け引きといった舞台装置が秀男の心情を豊かに浮かび上がらせ、読む者に迫ってくる。
「自分の本物」になるための孤高の闘いを描いた長編小説。
(新潮社 2090円)