「もしかして認知症?」浦上克哉氏
「もしかして認知症?」浦上克哉著
2025年、高齢者の5人に1人、約700万人が認知症に罹患するという厚生労働省の推計がある。その先も増え続けるこの数値の中に、あなたは入らないという自信がおありだろうか。
「認知症は現代医学では治療することはできません。薬で進行を遅らせるのが関の山です。ただ、認知症になる直前の軽度認知障害(MCI)なら予防することができます。認知症になるかならないか、一歩手前の“最後の分かれ道”といえるでしょう」
本書は認知症予備群である軽度認知障害の基本性質から、認知症との違いや科学的に正しい認知症の予防法までをまとめたもので、MCI段階での予防策を講じる重要性を説いている。
そもそも、我々は軽度の認知症と、その直前で認知症ではないMCIとはどこが違うのかもわからない。
「両者の異なる点は2つあり、ひとつは日常生活に支障をきたすかどうか、もうひとつは物忘れが増えたことを自覚できるかどうかです。MCIは認知機能の低下を実感しつつも日常生活に特に支障はない、非認知症の段階です」
たとえば、50代以上ともなれば、面識があって顔は分かるが、すぐには相手の名前が出てこないこともしばしばあるものだ。
「物忘れには老化から起こる健忘症と認知症によるものとの2種類あります。健忘症はデータベースは壊れていないが膨大な量が入っているため、引き出すのに時間がかかる。一方、認知症はデータベースが一部壊れてしまっているので、時間が経っても人の名前が思い出せないことがあるのです。あとから名前を思い出せるのは健忘症ですよ」
非認知症のMCIから認知症の軽度に進行してしまう割合は1年間で約5~15%で、逆に健常な状態に回復する割合は約16~41%といわれる。本書には、認知症で一番患者が多いアルツハイマー型認知症のMCIについて「話し始めてから何を話そうとしたか忘れてしまう」などチェック項目が6つ挙げられているため、おっかなびっくりでも自分で確認してみるといい。
「MCIは加齢が原因のほか、脳を使わないことや高血圧、糖尿病、脂質異常症の生活習慣病などのダメージで起こる場合もあります。健康状態をしっかりコントロールすることが大事です」
また、世界的な医学雑誌に発表された論文から難聴や抑うつ、喫煙など12個の認知症を引き起こす要因についても紹介している。
気になる予防法では、18年間、鳥取県琴浦町で実施しているプログラムの内容を解説。同町では認知症になる人が減少した結果、介護保険費用の負担額が7800万円(平成20年)も削減できたというから驚きだ。
「予防は運動と知的活動、コミュニケーションの3つから成ります。運動は、有酸素運動と筋力運動をバランス良く行うことが大切です。1日1万歩のウオーキングではやり過ぎです。知的活動面では頭を使いながら指先を動かします。クロスワードパズルや囲碁、将棋、編み物などいいですね。コミュニケーションは、多くの人と会話を楽しむことがお勧めです」
さらに、認知障害が起こる前ににおいが分からなくなる嗅覚障害が起こることから、アロマセラピーを使った予防法にも触れている。
「今、やっと社会が予防に関心を持つようになってきました。認知症は予防ができる時代。多くの人に取り組んでもらいたいですね」 (PHP研究所 1155円)
▽浦上克哉(うらかみ・かつや) 日本認知症予防学会代表理事。日本認知症予防学会専門医。鳥取大学医学部教授。日本老年精神医学会理事。日本老年学会理事。1983年鳥取大学医学部医学科卒業。同大大学院の博士課程を修了。「科学的に正しい認知症予防講義」など著書多数。