「Forget it Not」阿部大樹著
「Forget it Not」阿部大樹著
精神科病院を退院する50代の女性がこんなことを話した。
彼女が住む住宅の向かい側に、同じ病気の小学生か中学生の少女が住んでいる。その部屋に、女性を相模原から追いかけてきた27歳の男が住むようになった。この男と女性は以前、関係があった。
少女はその男に「あの女を殺して」と言い、男は止められない。その男は十何人も殺していて、女性も障害者だから殺されるかもしれない。殺そうとする者と止めようとする者という対立項が相模原で起きた事件を再現するように結合している。
妄想にはそもそも文化という変数が組み込まれており、妄想を突然変異体と捉えるより、それなりの理由があって遍在しているものと捉えるのが妥当ではないか。
ほかに、戦時下の優生論などについて精神科の医師がつづったエッセーと論文。
(作品社 2420円)