「文豪、社長になる」門井慶喜著
「文豪、社長になる」門井慶喜著
京都大学卒業後に時事新報記者としてキャリアをスタートした菊池寛は、流行作家となった後に、芥川龍之介や直木三十五らの協力を得て「文藝春秋」を発行する。本書は、作家兼出版社の社長として波瀾万丈な人生を送った菊池寛の一代記で、文藝春秋創立100周年記念作品だ。
物語は、かつて香川県高松で図書館通いの少年だった菊池寛が、師である夏目漱石の通夜の席に新聞社の命を受けて潜り込む場面から始まる。
漱石一門に自分を引き入れてくれた芥川龍之介の後押しで発表の場を得た寛は、読者の意表をついた小説を発表し、人気作家となり、文藝春秋の創刊へと歩みを進めていった。
同人誌から商業誌へ、文芸誌から総合誌へと発展していくなかで、戦争に突き進む当時の時勢に乗って戦争協力の道に足を踏み入れる様子も描かれる。のちに児童文学作家となった石井桃子に海外小説の要約のアルバイトをさせて娯楽小説のネタにしていたことや、芥川賞と直木賞創設のいきさつも紹介。
文人仲間の経済状況を思いやる人情や、商人としての抜け目ない戦略なども描かれ、その知られざる側面が興味深い。
(文藝春秋 1980円)