「裏日本的」正津勉著
「裏日本的」正津勉著
以前使われていた「裏日本」という言葉は、差別的であるといわれて、今では準禁止用語扱いである。この言葉は、「近代化の進んだ表日本」と「近代化の遅れた裏日本」という構図を感じさせる。
福井県の敦賀あたりの北陸道は蛇行して山がギリギリまで迫っていて、降雪も多い。この地形と気候が、この地の人々の心性を形作ってきた。昭和8(1933)年に敦賀を訪れた建築家のブルーノ・タウトは、広重の木版画のような敦賀港の美しさに魅了されたが、埠頭に立つ欧風の建築物に眉をひそめた。桂離宮や飛騨白川の民家などに美を見いだしたタウトには、清浄な国土を汚すものにしか思えなかった。
ほかに、若い頃、海と数限りない約束をしたのに、放浪の末、帰った故郷で、北陸の海に責められていると感じた詩人、藤原定や、若狭を舞台にした小説を書いた水上勉ら、さまざまな文学作品を通して「裏日本」を見つめなおす。
(作品社 2970円)